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クリスタル・クォーツ
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■RRN2  クリスタル・クォーツ〜水の伝承〜■

 第3話   ■担当:さゆき■
 何故、あの世界を欲するのか。
 何故、エンザークの王女を―――彼女を求めてしまうのか。
 シーリア。
 かの光。金色のまばゆい光を。
 我は闇―――魔界を統べていると言うのに。
 しかし。
 光が欲しい。
 シーリアと、あの世界。
 あの力。あの輝き。
 手に入れる。    何としてでも。

■ ■■■
 大ホールに軽快なワルツがこだまする。
 今日は聖マリアンナの学祭。そして多くの生徒が待ち焦がれた、ダンスパーティーの日。
 見渡すと、ここぞとばかりに美しく着飾った少女たちや、正装の若者たちが揃っている。
 その中でも、一際目立っているのが彼、冬星だ。
 漆黒の髪と闇色の瞳は黒の正装に良く似合っていて、彼の身のこなしすべてが女性陣の注目の的。
 しかし、持って生まれた寡黙さと独特の雰囲気がそうさせるのか、彼女達は遠巻きに見ていることしか出来なかった。
「冬星――」
 背後から声がして、彼はゆっくり振り返る。
「まぁた女の子騙してんのか」
「――騙してる訳じゃない」
「全く…何だっておまえばっかり人気なのかねぇ」
 はぁ、とため息をついて彼の友人たちは恨めしそうに冬星を見た。
「で、おまえ。誰か一人でも一緒に踊った子はいるのか?」
 少し間を置いて、
「いないな」
 とだけ答えた。
「おまえな…ここまで来といて踊らなくてどうすんだよ」
「そうだよ。折角なんだから、誰かと踊ってこいよ」
 友人たちの勧めに、冬星は肩をすくめてかぶりを振った。
「しょうがないなぁ…あ、曲が変わったみたいだな」
「じゃあ俺達は踊りに行くか」
 おまえも誰か見つけて踊っとけよ――、と言い残して友人たちはそれぞれの相手と共に紛れていった。
 曲は軽快さが消え、優美で流麗。伝統ある聖マリアンナのパーティーには、ふさわしい選曲と言えた。
 広いホールのきらめく明かり。壁の白さ。どれをとっても、申し分無い豪華さ。聖マリアンナの名物と言えば、学校単位では他に類を見ない蔵書量を誇る図書館と、この大ホールである。冬星にしてみれば、縁があるのはホールより図書館のほうが圧倒的に多いのだが。
 目の前を流れるように行き交う色とりどりの衣装をぼんやりと眺めながら、冬星は思案に暮れる。
 エンザークのこと。龍のこと、五行思想のこと。そしてシーリア―――
 考え出すと、収拾がつかなくなる。
(そう言えば)
 ふと、古文書のことを思い出した。
(夏旺がこの間言ってたな、何かつながりがあるんじゃないかって)
 図書館で見つけたあの文献を読んで以来、なんとなく考えてはいた。
 もしかしたら、このエスタシオーネス星系とエンザークは―――
「踊らないの?」
 少なからず驚いた。何の気配も無くいきなり声をかけられたから。
 声のしたほうを見ると、冬星のちょうど右隣に、彼と同じように壁にもたれかかってこちらを見ている少女がいた。簡素なデザインのワインレッドのフォーマルドレス。肩にかかりそうな長さの髪は墨を落としたような黒。寒気のする緋色の大きな瞳。
「踊らないの?…都築冬星君?」
 彼女はもう一度言った。
「……あぁ」
「そっか。私も同じ。踊れないし、第一誰も誘ってくれないし」
 最後は少し自嘲気味に、口の端に微笑を浮かべて彼女は言った。
 何処かで出会った気がする、と冬星は思った。
 何処かで会ったのだろうか。
「―――何処かで会ったことが?」
 途端に彼女は満面の笑みを浮かべた。
「やだそれ、どう聞いても口説き文句よ」
 そう言って彼女はくすくす笑い、「ごめんね」と小さく付け加えた。
「そう言うつもりで言ったんじゃないってことくらい判ってるわ。だけど、その質問の答えはおあずけです。自分で考えて、ね」
「え…」
「そうね、次会うときまでの宿題ってことで」
(どうも調子が狂うな…)
 振りまわされている気がする、とも彼は思った。その読みはあながちはずれではない。
「たぶん、覚えてないでしょうね…でもいいわ。その方が貴方にとっても私にとっても動きやすくなるから」
「それはどういう…」
 彼女は少し口の端を上げ、何かをつぶやいた。
「――――!!」
「あら貴方、読唇術が使えるの?」
 くすくす笑いながらそう言ったとき、またしても曲が変わった。
「さて。そろそろ行かなくちゃ。お話できて嬉しかったわ、ありがとう。またどこかで」
 彼女は身を翻し、黒髪がさらりとなびいた。
「待て!どうしてそれを知っている?君は何者だ!?」
 彼女は振り返り、さっきと同じ笑顔で言った。
「残念だけど、それも保留ね。あと、名前だけど――敢えて名乗らないでおくわ。意味の無い名前だし。…また、いずれ」
 彼女は、人ごみに紛れて判らなくなった。
「……ちょっと待てよ…何なんだ」
 冬星は言い様の知れない不安を隠せなかった。あの緋色の大きな瞳が、自分に呪縛をかけたように感じられた。
 果たして彼女は、敵か味方か――


「…あれがエンザークのアクア・ディーオ・カヴァリエーレ……黒龍の力を受け継ぎし者」
 鉄紺色の夜空に、くすくすと笑い声が響く。
「面白いわね、彼…」

■ ■■■
『良くぞ来てくれた』
 風吹く草原で、青龍はゆったりと言った。
「今回は何だ?」
 もう慣れたといった風の、落ち着き払った声で樹は答えた。
『うむ。我には具体的に述べることは出来ないが…まもなく、であるから覚悟召されよ』
「あぁ、わかった。――ところで」
 彼は青龍の後ろを見た。
 人のような影が、目に入った。
 樹は迷わずそちらに向かい、影の主をまっすぐ見た。
「あなたがあの“さすらいの吟遊詩人”カシュウさん?」
 影の主はつかめない笑顔を向け、
「やぁ、どうも」
 と挨拶をした。
 樹は明らかに胡散臭いな、と思いつつも希から聞いた話だと敵ではないようなので挨拶を返した。
「どうも、希から話は聞きましたよ。ここで何をしてるんですか?」
「や、その台詞、彼からも聞いたよ。――何をしてるかって?ちょっとばかし詩を作ってたのさ。あんまり風が気持ちいいから」
 そう言ってカシュウは草原の果てを眺めた。
(どうもこの人は…いや、どうだろう)
 ついつい樹も一緒になって眺めてしまった。確かにここは良いところだ。しかし。
「あの、ここはこれから大変なことになるんで、何処か安全なところへ」
「なぁに気にしないさ」
(こっちが気にするんだよ…)
「大丈夫だ」
 カシュウがにっと笑ったその瞬間。
『来たぞ!』
 青龍が鋭い声を発し、樹は空を見る。
 黒い点が、だんだん近づいてくる。
「これは…なんなんだ!?」
 今までに見たことも無いような、黒い異形の怪物が姿をあらわした。
 伴うおぞましい冷気。鳥肌が立った。
「こんなものまでいるのか…」
 その異形の怪物は目(だと思われる)を緋色に染め、鋭いつめで樹に襲い掛かってきた。
「――っ!くそっ、速い!今までとは訳が違う」
 頬に赤い筋が2本出来ていた。わずかに血がにじんだ。
(速さについて行けないのなら…)
『主、休んでいる暇などないぞ!乗られよ!』
 青龍は有無を言わさず樹を背に乗せ、怪物の爪をかわした。
 怪物はうなりをあげ、青龍と同じ高さまで飛び上がった。腕を振り下ろす!
「うわあっ!」
 突風が、樹を青龍の背中から振り落とした。まるで木の葉のように、体が舞う。目が開けられない――
『主!』
 青龍が助けようとするが、突風で思うように動けない。
(落ちる…!)
 地上は遥か下に見えた。樹は風煽られ、そして――
「まったくもう、見ちゃいられないな」
 落ちた。――が、思ったより衝撃が少ない。ちょうど、ころんですりむいた位の痛みしかない。
「…いてて、て」
 樹はカシュウを下敷きにしていた。
「…失敗、したな…まぁ、いいか。大丈夫か?全くみちゃおれないな」
 カシュウは樹をどけさせて、体についた土を払った。そして樹に向かっていった。
「シーリアに教わらなかったか?この世界では言葉が効力を持つって」
「確かそのようなことを聞いた」
「だったら、実行してみるといいさ。ぼやぼやしてたら傷が増えるだけや」
 怪物は、空から爪を掲げて降りてきた。確かに時間が無い。
「青龍!大丈夫か!?」
『あぁ。主よ、今は我の心配より目先の敵のことを考えろ』
 自分が、何とかしなければ。
「…やってみよう」
 敵の怪物を見据え、すうっと息を吸う。言うべき言葉が――判る!
「青龍の力を受け継ぎし、我の名は…エリュージュ!」
 途端、青い光が辺り一面を覆い、彼の頬に合った二筋の傷は癒えた。すべてが浄化されるような、やさしく強い光。異形の怪物は、青の光に呑みこまれ、影だけが蠢いていた。
「――青龍」
『うむ』
「…消えろ」
 エリュージュはそれだけ言った。不思議な威圧感が感じられた。
 闇の怪物は、すべてを青水晶の光に呑み込まれ、消えた。
「うっそ…だろ、まさかここまで解放するとは…」
 カシュウがあっけに取られた顔をしてつぶやいた。
「どこまで力を秘めてるんだ…」
 辺りはすべてがもとのように、穏やかな風が吹いていた。

■ ■■■
 一方、エスターテ科学技術省諮問科学研究所の一室では、夏旺が眼の下に隈を作りながら古文書に向かっていた。どうやら徹夜続きらしい。
「夏旺。少し休んだらどうだ?死にそうな顔してるぞ」
 主任でも、父は父。息子の体を気遣わないわけは無かった。
「だ―いじょうぶだって。これくらい、何でもねーよ」
 とても何でもねーよ、といった風貌ではなかった。何かにとりつかれているような顔をしている。
「だけどな…おまえ、三日もここにこもりっぱなしじゃないか」
 父のその台詞に夏旺は少しどきりとした。実際ここ数日、研究室から外に出た記憶が無い。
「―――大丈夫だっていってるだろっ。それにもう少しでこれが読めそうなんだ、そうしたら…」
 この龍の紋章とのつながりが、と言いかけてやめた。これは…このことは、父にも言えない。
 父は何かを察したのか、それとも別のことなのか、夏旺の目を見てにっと笑った。
「まぁ、頑張れよ。ほどほどにな。それと!」
「何だよ」
「ちゃんと睡眠をとるように。これは父として、主任としての命令だ」
 夏旺はちょっと眉をしかめた。が、すぐに笑みを浮かべた。
「―――…あぁ、判ってるよ」
「よし」
 父は悠然と研究室から出ていった。その背中を見送りながら、夏旺はつぶやく。
「…ちゃんと睡眠をとるように――か」
 さすがに体力も限界にきているらしい。やはり眠らないでいると、若さでカバーすることも無理のようだ。作業速度も著しく低下していた。
「もう少し、なんだよ…もう少…やべ、もう駄目かも…」
 ものの数秒としないうちに、夏旺は机に突っ伏して安らかな寝息を立てていた。

 紅の水晶が少し光ったのは、気のせいだろうか。


 夏旺が目を覚ましたのは、その五時間後だった。外はすっかり闇で覆われていた。
「!…俺五時間も寝てたのか!?」
 がばっ、と起き上がると白衣が床に落ちた。
「ん、あ…?あれ、俺白衣なんて……親父か」
 白衣を拾い上げながら、夏旺は苦笑せずにはいられなかった。
「よりによって白衣をかけてくれるとは…親父らしいぜ、全く」
 背伸びをし、軽く頬を叩いてみる。頬を叩いたのは目を覚ますためと、ちょっと気合を入れるためだった。何処かはっきりしなかった頭の動きも、現実へ帰ったように活発になる。
 ふと、何かに呼ばれた気がして、思わず辺りを見まわしてみた。
「…?何だぁ?」
 特に異変は無かった。――と思われた。
「わかんねぇなぁ…ま、いいや。仕事、仕事っと」
 夏旺は机に向かい、古文書とにらめっこを始めようとした――その時。
『おい、お主。まだ聞こえぬのか?…名前を呼んでみるか。おい、スティラ――』
「!?」
 突然、声が聞こえた。発信源は紅水晶。そして声の主は――
「赤龍!?うわっ」
『おぉ、聞こえたみたいだな。実は少々前から呼びかけていたのだが、我が如何せんこちらの世界に慣れてなくてな。どうにか慣れたようだ』
「赤龍、こっちで話せんのか!そっかぁ、希が前にそんな事言ってたっけ。これは急いで皆に報告しないと…って、おまえの話が先だな、赤龍」
 夏旺はすとんと椅子に座った。紅水晶は鈍く光った。
『すまんな。そろそろ、他の龍達も慣れてきておるはずだから、我と同じように出来る筈だ』
 赤龍は声と光だけで、姿が見えない。
「今まで感覚としてしかわからなかったもんなぁ。これからは意思の疎通がこっちで図れるわけか」
『そういうことだ。まぁ、毎日という訳には行かないが』
「で、こうして自己主張してきたということは…なんか話があるんだろ?まぁ、言えよ。古文書は後回しにすっから」
 紅水晶を机に置いて、夏旺は椅子に持たれかかった。聖獣である赤龍に対してこの居丈高な態度。これが夏旺スタイルであった。赤龍もそんな事を気にする性質ではないので何も言わなかった。
『うむ。実はな、前々から言っておかねばと思っていることがある』

・・・・・・・・

「―――……それ、本当にあったことなんだな。そしてこれからも起こる可能性が…」
『無いとはいいきれん』
「…本気かよ…まさか…」
 夏旺は愕然とせずにはいられなかった。

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