■RRN2 クリスタル・クォーツ〜水の伝承〜■
第9話 「絡み合う宇宙」 ■担当:魅夜素■
■ エスタシオン 早朝 ■■■
琥珀亭の前で老人が朝の体操をしている。
妻は、洗濯物を干している。「おい、ばあさん、希はどうしたんだっけ?」
「まだ寝てるんじゃないですか?」
「しかし昨日希に会いに客が来たんじゃろ?」
「そうですか?あたしゃ知りませんよアハハ..腰が...」
「お前も歳じゃなぁ。痛ッ..腰が..」
「人のこと言えないじゃないですかアハハハ」
「やかましい!乾布摩擦じゃ!タオル持ってこーい!」
「はいはい。心臓発作起こさないでね。」
ばぁさんはいそいそとタオルを取りに中へ入っていく。
「希の野郎...両親が見つかるといいのぉ..しかしそうなればわしらは寂しくなるな....あいつはガラスのセンスもある。後継者にしようとも思うがやはり親と暮らすのがあいつのためにはいいと思うんじゃ...」
「あんた!何ぼーっとして!ま、泣いてるの?アハハハ!」
「じゃかましい!目にゴミが入ったんじゃ!早くそのタオルを貸せ!!」
エスタシオンは既に早朝だ。
■ エンザーク・ポッド内 ■■■
輝のエンブレムのヒビ。それの影響に違いない。白龍はぐったりとしてかろうじて結界だけは解除しまいとしているのが分かる。
「なんで...なんでアーヴェントはこんな事するんだよ!僕の.....僕のエンザークでの兄弟だって言うのに!どうしてこんな事になるんだよ!!」
「落ち着け希。お前の回復の能力。あれでどうにかならないのか?」
「樹はなんでそう冷静にいられるんだよ!でもその割には頭は働いてないんだね!僕みたいな覚醒しきってないやつがアーヴェントの魔法に勝てるわけないだろ!!」
「もういい。俺に任しときな。なんつってもこいつの主は俺だ。希の言うようにきっとエスペランサでは勝てない。俺は覚醒する。」
「ご...ごめん...輝...僕..どうしちゃったんだろ..」
「でもなんかカッコイイぜぇ!輝さんヨォ!」
「五月蝿い。夏旺。俺らもクレルフィデスとスティラートとして覚醒しなきゃならん。」
輝は、白龍の前に立ち、片手にエンブレム、片手にフェアリィのくれた虹色の石を持った。
「ねぇアルマ、フェイネルは覚醒すると思う?」
「自己流は難しい。だが、最後は、やつ次第だ。」
アルマが図太い声のゆっくりした喋りで答える。
「しかし、賢者殿、陛下はどうなされた。」
「いま、奥の部屋で寝ているようじゃ。」
「クロースには悪いことをしたと思っている...本当に...だがそれなりの償いはしようとしたんだ..」
「カシュウ、済んでしまったことはしょうがないわ。これからよ。問題は。」
■ アウトゥンノ 夜明け、8話の翌日午前 ■■■
「輝のやつ...昨日はセジュに行ってくるとか言って結局朝帰りか...」
輝の父である。書斎のような専用の部屋で、株の動きを眺めながらぼけーっとしている。
しかし、その指だけはほとんど自動的にキーボードの上を滑り、投資、売却、そのほかの資料等と、休む間もなく働いている。
「あいつももうそんな歳なんだろうなぁ...きっと彼女でも出来たんだろ..憎い野郎だ。生意気な。」
近くのイクスフォンを見てため息をつく。
「オヤジはマネーゲームで失敗の連続。それに呆れた母親は離婚。そんな環境じゃあんなガキになってもしょうがねぇよなぁ..」
株価変動のグラフを見てまたため息をつく。
「もっと早く俺がこうして成功していれば、輝はこんな苦労しなくて済んだかも知れねぇなぁ..しかしやつの方が取引にかけては一枚上手だからなぁ..」
指を休めて、窓から少し明るくなりつつある地平線を眺める。
そして近くのウイスキーをぐいと一飲みする。そしてため息をつく。
「皮肉だぜ..」
部屋の隅の額縁の中の文字を眺める。ため息をつく。
「無心、か..金のことばっかし考えてるとダメなんだよな...ハハ」
ため息をつく。
「ため息が多くなっちまった。俺ももう歳かな。」
残ったウイスキーを一気に飲み干す。
地平線からは金色の光が漏れていた。
■ エンザーク・ポッド内 ■■■
「じゃ、だまっとけよ。」
輝が全員を静かにさせる。
白龍は未だにぐったりとしている。エンブレムのヒビはさらに一つ増えていた。
「白龍ヨォ..俺はハッキリ言ってまだお前とはあまり喋ったこともない。友情だとか、俺が主だとかそんな事も思ったこともない。実際。」
「昔の...ままだな...主」
「無理に喋るな。喋らないでいい。だが、だ、俺は、今までも少し先を見て動かなきゃならない仕事をしてきた。だから、お前とは上手くやっていかないといけないし、上手くやっていける。コレが俺の予測で、結論だ。俺は、俺のやり方で覚醒する。」
「(ふん..魔法だとかそんなのは元から信用しちゃいない。しかし俺に本当の力があるならコレしかないんだ。<無心>オヤジがよく言ってたよな。(さっぱりはっきりあっさりきっぱりが俺のモットーだ..)」
輝の右手の虹色の石が無色の光を放つ。
「(心を無にする....そして我が名は..俺は...)」
「俺は俺だッッッッッッ!!」
「なんじゃそりゃぁぁぁ!!!」
夏旺が思いっきり期待を裏切られた顔で叫んだ。
それとは裏腹に、今度は輝のエンブレムが輝きだした。
「夏旺、五月蝿い。」
冬星がまた夏旺をおとなしくさせる。
「コレでも飲みな。」
輝はおもむろに懐から瓶を取り出し、そのまま白龍に飲ませた。
「輝...それは何?」
「あ?新発売”ビバファイト・S”だ。知らないのか?俺担当で開発した新製品だ。元気出るぞ?」
「アホかぁぁぁぁぁぁっッ!!」
「やかましいっ!!夏旺ッ!!」
「そんなキャラだとは思っても見なかったぜ...輝...」
「ああ...ダメダメね...」
「話にならんのう...」
樹とフェアリィ、賢者二人はもう呆れ果てている。と、その瞬間。
「ピシッ!..バキッ!..パリッ!!」
「パーン!」
「わ..割れた...」
「白龍が....」
エンブレムが割れた瞬間、白龍の体にも無数のヒビが入った。
「うぐっ!」
「輝ッ!!」
輝もその場に倒れ込んだ。
「なにぃぃぃぃぃっ!!そんな!輝!!」
皆が慌てて駆け寄る。
「おのれ...アーヴェントが、早かったか..」
「アクア・シールも勝てぬとは....」
アルマとカシュウが頭を抱えて嘆く。
「いや、見て!輝は無事みたいだよ!っていうか..あ...!!」
すさまじい無色の閃光。それは白龍、輝のクリスタル、そして輝..いや、フェイネルの体から発されていたが、それは今までの「白」ではなく何の迷いもない「透明な輝き」であった。
「ふっふっふっ....どうよ見たかビバファイトの威力...むしろ俺は天才だな...俺の名はフェイネルにして輝!そしてその龍の名は”無龍”(むりゅう)だっ!!」
割れたクリスタルの中から透明なクリスタルが現れた。そして、透き通ったガラスのような無龍が白龍の皮を破って現れた。
「主ぃ!俺、なんかノリノリだぁ!!」
「ふん!無龍!調子に乗るんじゃぁないぞ!」
「歴史を...塗り替えたのか...今度のアクアは...」
奥から出てきたクロースが立ちつくしてその様子を見ていた。
「フェイネルの本来の<白>の力を越える能力...すごいわ!」
「<覚醒>と言うより、フェイネルとの<融合>と言うところか..やつの、別世界での能力が加わったのだな。」
「ビバファイトはともかく、コレで結界の寿命も長くなったんじゃねぇか?」
「近頃のわかもんは...昔のアクアシールよりたちが悪いわい。」
コレで完全に覚醒したアクアシールは二人だ。
■ エンザーク・モーグリの鬘 数十分前 ■■■
「チッ...まだ白龍は死なないのかな?...さっきからあいつの気のする方向に力を注いでいるというのに..」
「アーヴェント、あせってはいかん。もう時間はないはずだ。」
「まぁいい、シーリアを見つける手なら、他にもある。ちゃんと魔界から連れてきている。既に。」
「まさかおまえ...なるほど...」
ウェスペルは、既にアーヴェントが召喚していた生物を見て、息子に恐怖に近い物を感じていた。
「ここまで考えてあるとは...」
「じゃ、行こう。父さん。」
「ああ。お前の人生はお前の物だ。」
「まって...近いよ...どうやったのかは分からない...だが...野郎!力を回復してきやがったッ!!俺の術をっ!!」
「ああ、私にも分かる。何かさっきまでとは違った力が...あそこだ..」
奥の洞穴に人はいない。だが、何か「ある」。そう二人は感じた。
「あの気は白龍とは違う...でも、僕なら大丈夫だよ。まかせて。」
アーヴェントが拳を頭上にかざすと、その手に暗黒の大剣が現れた。
「 斬 」
暗黒の衝撃は木々をなぎ倒し、洞窟へまっすぐに向かっていった。
大爆発が起きた。
その洞窟の中には、シーリアが居た。
「まさか..こんなに早く見つかってしまうとは...」
「安心しな。俺達の目的は貴様を殺すとかそんなちんけなもんじゃねぇ。ただ単に、エンザークののんきな野郎共を魔界のお仲間にしてやろうってだけの事よ。」
「口だけは達者なのですね! 来たれ<激流>っ!」
シーリアの水の刃がアーヴェントとウェスペルを切り裂く。
「くっ...さすがはお姫様だね。でも、予想通りだよ。エンザークは水の都だからなぁッ!そのお姫様がどんな魔法を使うかなんてよぉっ!!」
アーヴェントが叫んだ瞬間その背後から別の黒い影の男が数人現れた。
「なっ...まさかっ!!...押し流せ<爆流>っ!!」
シーリアの水の大波は「黒い影」に吸い込まれた。
「ふん。水属性の魔法。馬鹿の一つ覚えか。ま、俺も闇ばっかだがな。俺の連れてきたこいつら、デス・グリーンズは<闇植物闘士>だ。光りのねぇ暗黒じゃぁ水と闇しか餌がねぇもんでよぉ。かわいそうと思わない?」
すると、デス・グリーンズはすぐにシーリアの周りを取り囲んだ。
「何をする気です!」
「あ?お前はただのおとりだ。アクア何とかを呼び出すためのな。やつらを始末した後は、俺のエンザークでの遊びを手伝ってもらって、こいつらの餌にでもしてやるよ。じゃ、おとなしくしてね......お姫様。」
と言うと、アーヴェントは詠唱を始めた。
「闇の緑よ。我が<魔王>の名のもとにこれを捕らえよ。<封水の鎖>ッ!! 」
「そんなこと......力が...」
デス・グリーンの発する胞子が少しずつシーリアの「水の力」を吸収していった。
「こうなっちまえばエンザークのお姫様もかわいいもんだな。」
アーヴェントは、動くことの出来なくなったシーリアの顔を引き寄せ自分の顔に近づける。
「あなたには...まさか......」
「あ?何だって言うんだ?え?しっかり喋ってみろよ?」
「アクアの..5人なら..きっと...」
「うるせぇ。おい、デス・グリーンズ、ちょっとこいつを静かにさせてくんねぇか?」
「くっ....」
数人のデス・グリーンがツルでシーリアを締め上げ、「力」を吸い取った。シーリアは意識を失った。
「しかし、シーリアが我らの手にあることをやつらは知るのだろうか?」
「大丈夫。どうせこのデス・グリーンは光りを嫌うんだ。知能は低いから、勝手に闇を作りながら<夜>の方向へ移動するんだ。そうしてるうちにやつらからのこのこ死にに来るさ。それとも、お姫様が力を振り絞ってあいつらに知らせるかな?助けて!とか?それとも来ちゃダメ!殺されるわ!とか?ククククク...楽しいね...」
「アーヴェント....だが私はお前とともに生きるぞ。」
「分かってるって。オヤジ。」
■ エンザーク・ポッド内 さらに数十分後 ■■■
「結界が...破られた...」
「ナニィ?輝?まじかよおい!」
「ああ、夏旺、今、感じたんだ...シーリア....まさか!」
「俺達が行く。」
「俺達っておい冬星...なんでからっきし覚醒してねぇおれらが..」
「偵察だ。敵の状況を把握する。」
「あ、なーるほど。よっしゃ。樹。トランシーバーを貸してくれ。」
「大丈夫なのか?」
「まかせろ。」
「冬星がこういうならきっと大丈夫だよ。ね。夏旺。」
「お...おうよ。」
「私も行くわ。」
「ファータ...どうした突然...」
「アルマ、私はフェアリィ。わかった?あのね..ま、いいじゃない。」
「来いよ。」
「おい、冬星いいのか?こんなやつ?」
「こんなやつとは失礼しちゃうわ。貴方よりマシよ。」
「うるせーわ!チクショウ!勝手にしやがれ!行くぞ!冬星!」
三人は騒々しく(主に騒々しいのは二人だが)出ていった。
「心配だ....シーリア....万一のことがあれば俺は...」
「フェイネル、何ボケーッとしてるんだ?」
「いや、あ、え?お?カシュウさん?いや、ハハ?なんでも?何でもないっすよまじで!」
「それならいいんだがな...」
カシュウはにやける。
■ インヴェルノ 聖マリアンナ・ニュースルーム 昼 ■■■
「何でって俺らのグループはよりによって共同研究の課題論文が<神学と科学の根本的類似>なんだ?」
「たしかになぁ。わけわかんねぇし。」
「オカルトっぽいことになりそうだよなぁ...<海に沈んだ超古代文明が現在よりスゴイ科学力を!!>とかな。」
「ハハ!ありがちだなそれ!まったく...それにしても冬星のやつ...またサボりかよ..」
「単位取れるのか?あんなんでよぉ...ハハ!ま、でもあいつは見えねぇ所でやってるタイプだからな。」
「いや、でもな、あの事件まではこれほどサボることはなかったんだぜ?それに、人付き合いも良かった。マジで。」
「あ、そういやガキの頃は皆勤賞取ったことあるとか言ってたなぁ。」
「あの事件って、ロードウェイに転落したガキを助けて冬星が車に衝突して重傷を負ったってやつか?」
「そうなんだよ。あの事件があってしばらく顔見せなくなったと思ったら、今の調子になって戻って来やがった。」
「なんかあったのかもな。実は<お前は既に死んでいる>とか?」
「古ッ!何千年前のネタだよお前!!」
例の、冬星の友人の3人組である。話しているように、その課題のネタ集めに、機密度の高い最新ニュースの集まるニュースルームにやってきたようだ。
「さてさて...ここらのデータベースで調べるか。ぽちぽち...ぽちっと。」
「なぁ...おい、このニュース、すげぇ俺達のネタになりそうじゃねぇ?」
「<宇宙連邦職員、女性部下へのわいせつ行為で逮捕!!>なるほど。こりゃいかんな。まったく..」
「貴様の目は節穴か!そんなのしか目に入らないなんて、聖マリアンナの学生の名がすたるぜ。」
「ああ、すまんすまん。これな。これか。」
「<特集−惑星誕生に新説!同時的に存在する別次元からの移動!>??なんじゃそりゃ?」
「メモボードにDLしとくか。ぽちっと。」
「なになに....下のコレをクリックか。」
■ ■■■
「良く読んだか?な、興味深そうだろ。」
「うむ...ほんとかよ...」
「しかし、非科学的な話だなぁ...」
「だが、神学にも、科学にも関係大ありだろ。」
「うむ、そういや俺も朝のニュースでこんな事聞いたことあったぞ。」
「つじつま合わせの学説じゃぁねぇの?」
「いいんだって、冬星のやつがのこのこ来たら、ビビルくらいの論文書いてやろうぜ!」
「おうよ!」
科学宇宙のパラレルワールド、それこそが....
■ エンザーク 宮から森への道 夕方 ■■■
「なんでこんな魔法世界でエア・バイクなんか転がさなきゃなんねぇんだ?イメージぶちこわしだぜ。」
「主...変わった馬だなぁ...」
「...俺は覚醒できないかも知れない....」
「聞こえてんのか冬星!しかも、そのうるせぇ女、なんでお前のタンデムシートに乗ってンだよ!」
「っるさいわねホント!貴方に関係ないでしょ!ね。クレルフィデスぅ〜。」
「.....ぐむ...」
「ちょ、うわっ、あぶなっ..」
「ガシャーン」
「冬星!何やってんだっ!何もないところで転けてンじゃねぇ!大丈夫か!」
「あっぶないわねぇ...ちょっとどうしたって言うのよ...だいじょうぶ?」
「すまない...ちょっと傷が痛んだだけだ...」
「それならいいんだけどヨォ...それにしてもお前、敵の居場所は検討ついてるのか?」
「勿論。待て。」
冬星は「手のひら」からホログラム映像を出し、それに映るレーダーを見た。
「後2.6km東北東だ。」
「??ちょ...ちょっと待て...今、どこからホロ映したんだ??」
「クレルフィデス...あなた...腕...」
冬星のエア・バイク転倒の時の傷、樹に食らった傷をよく見ると、中から無数の金属部品が見えた。
「これか、自動修復機能が遅れてるみたいだな。張り切って動きすぎたからか。」
「そ...そ?へ?」
「あ、まだ言ってなかったな。俺はサイボーグだ。」
「ま...マジ?は?冗談も休み休み言えってんだ!」
「交通事故で俺は一回死んだ。だが、その精神力を認められたのか、宇宙安全維持サイボーグのプロトタイプとして、脳を移植してよみがえった。以下略。」
「以下略ってねぇちょっと...それだけじゃ何も...」
「傷か?コレくらいならすぐ治せる。だが完全回復はもう少しかかる。」
と言った瞬間、内部の機械が自動的に配線を修復し、亀裂をふさぎ、皮膚も元のように戻った。
「主、何故黙っていた?」
「忘れていた。」
「科学の力...ね....」
「だから、俺は覚醒できないかもしれんと言っただろう。」
「大丈夫よ。きっと。科学はさっぱり分かんないけど、心がクレルフィデスならきっと大丈夫よ。」
「お..おう、俺もそう思う。しかしサイボーグ...初めて見た...」
「化け物を見るような目で見るな。それより、敵は近づいてるぞ。もうすぐ2km内まで来る。」
「な..どうしてお前のレーダーで分かるんだ?」
「アーヴェントの動きがおかしくなったとき、既に俺に内蔵しているレーダー用の発信器をつけておいた。」
「ホント、不言実行な所は変わってないわ...」
■ エスターテ 科学技術省諮問科学研究所 三時頃 ■■■
「夏旺のやつ..そういや朝から見てないなぁ...おい、前川?見てないか?ああ、見てない?わかった。ありがとう。」
夏旺の父である。今日は朝から夏旺の姿が見えないので、ひとまず代わりに古文書の解読に頭をひねっている。
「しっかしなぁ...よくあいつこんなのから単語を読みとったなぁ...俺にはどう見ても化学式にしか見えん。コレが炭素だろ、これが...」
古文書の文字を一つ一つ、いつもの癖で化学式として読みとっていく。
「あ、なるほど。コレはアミノ酸か!ははぁ....って違うだろ。いくらなんでも。」
ごろりと床に仰向けになり、バサリと顔に古文書をのっける。
「ちくしょう...我が息子ながら悔しい...夏美にも見せたかったぜぇ...こいつの成長をよ..」
古文書をぽいと横に投げ捨てて、机の上の家族写真の入った写真立てを見上げる。
中央に幼い夏旺、左に自分、そして右に妻の夏美が写っている。
「なんであんなに早く行っちまったんだろうなぁ...神様もひどいもんだぜ。」
再び古文書を拾って、イスに座り机に向かう。
「なぁ夏美...教えてくれねぇか?こいつの読み方をよぉ....あ...」
写真立てに反射した古文書はやけに見えている文字数が少なかった。
「こ...これは...」
古文書をぐるぐる回して別な角度から見てみる。そうすると、ちょうどさっきのように見える角度があることに気づいた。
「なるほど!コレは、表音文字と表意文字の組合わさった文なんだ!そして、この表音文字は、いわゆる<ふりがな>の役目をしていて、この角度から見たときは消えるインクで書かれて区別されている!真上から読んでも意味が分からないはずだ!」
写真の夏美にキスをして大急ぎで解読に取りかかる。読み方さえ分かれば後は表意文字の単語をつなぐだけだ。
「前川!ジェディッド!ルーモ!金!早く来いって!解読できるぞ!」
部屋の人員を集めて大仕事が本格的に始まった。
■ エンザーク 森付近 夜 ■■■
「近いわ...」
「ああ、感じるぜ。頭の髪の毛が逆立ってきやがる。」
「ってをい!冬星!一人で行くな!!ちょ..あのバカ!」
「この機械はおいていくの?」
「ああ、エア・バイクは小回りきかねぇから、戦いには不向きそうだしな。」
二人は急いで冬星の後を追う。
「凄く近い。前方500mだ。」
「ってどうすんだよ!まぁいい、冬星、お前はまだ治療...じゃねぇな、修復が完全じゃねぇんだろ。俺らでお手並み拝見してやる。」
「すまない。」
「あんた正気?今のアーヴェント、何か<違う>のよ!私の知ってるアーヴェントじゃないわ!」
「偵察には危険もつきもんなんじゃねぇの?ま、危なくなったら逃げてくるからよ。」
夏旺、赤龍、フェアリィは前方の強烈な暗黒の気に向かっていった。
二人と赤龍は林の陰から様子をうかがう。
「な...なんじゃありゃぁ...なんか変な男がたくさんいやがる..アーヴェントとそのオヤジもいるなぁ...」
「大きな声出さないで!あれはデス・グリーンズよ。闇と水がエネルギーの闇植物闘士なの。気持ち悪ぅ。」
「あ..あそこ...捕まって運ばれてるのはシーリアじゃねぇか?」
「ほんとだ...<封水の鎖>ね..水の力を封じられているんだわ...」
「無龍の結界も歯が立たなかったのか...主、どうする?」
「人質じゃねぇかあれじゃ...マジどうすんだ...?」
「ひとまず逃げましょ。今の状況じゃ勝ち目なしだわ。」
とフェアリィが後ろを向き一歩踏み出す。その時
「グチャッ」
「きゃっ!汚い!ってこれは!」
「どうしたフェ..まさか...そいつはっ!!」
「既にこんなに広い範囲に広がっていたんだわ!!デス・グリーンズのツルよっ!!レーダーのように警戒していたんだわっ!」
「なにぃぃぃぃ!!!」
周囲をよく見回すと、暗くて気づかなかったが、周りの林にも数人のデス・グリーンが隠れていることに気がついた。
「誰だっ!!」
アーヴェントが叫ぶ。
「ネズミか................死ね。」
アーヴェントの指から放たれた暗黒の衝撃が林を一瞬で消滅させた。
「どうしたアーヴェント、何かいたのか?」
「ああ、やつらだろう。ツルを伸ばしておいたらまんまと入って来やがった。飛んで火にいる夏の虫だね。」
「始末できたのか?」
「チッ...生意気な...」
二人は夏旺の張った火焔の壁でどうにかダメージを防いだ。
「フェアリィさんよぉ、大丈夫か?」
「ん?どこ行きやがった?」
「あいつ!馬鹿野郎が!!だがまあいいか!あんなに大口叩いてたんだから大丈夫だろう!赤龍いくぞ!フェアリィ!適当に頑張れよ!!」
夏旺と赤龍は、ダッシュでアーヴェントに近づいていった。
一方フェアリィはというと、大勢のデス・グリーンズ相手に苦戦していた。
ツルを踏んでしまったので標的にされてしまったようだ。
足をツルに巻き付かれ、デス・グリーンズの集団まで引き込まれていた。
「こんな大勢でか弱い女の子一人にひどいんじゃない?いでよ!<暗黒剣>!!」
「オレタチハ..ヤミト、ミズガ、エネルギー。オマエノ..ヤミノチカラ...イタダクゾ。」
斬っても斬っても現れるデス・グリーンズは、ツルを伸ばしてきた。
「きりがないじゃない!こんなにたくさん!!...きゃっ!しまった!腕に巻き付かれたっ!」
「イイチカラダ...モットホシイナ..」
「ううっ...力が..抜ける...」
さすがのフェアリィも、力を吸われ、多勢に無勢、剣を奪われ、大量のツルで全身をからめ取られ身動き一つ取れなくなってしまった。
「くそっ...やばいわ...」
「チカラガ...ミナギルゾ...」
ツルはさらにフェアリィを締め付けた。
「........しょうがないぜ。」
「ナニ......チカラガ...モドッテイク...バカナッ!!」
「まったく...ちぇっ、臭えし汚いやつらだ。こんなやつらに本当の力は使いたくなかった。まぁいい。消えろ。ウザイ。」
と、「ファータ」がつぶやいた瞬間、大量にいたデス・グリーンズは跡形もなく消滅した。
「...またやっちゃったわ...私はかわいいフェアリィだって決めたのに...」
フェアリィの実力、本人は嫌っているが、それこそがファータとしての力なのである。
「ま、今日は特別かな。次はアーヴェントの野郎だぜ。なんちゃって!」
と言うと、急いでアーヴェントに向かって行った。
夏旺は、ベルトの両側からレーザーガンを二丁取り出した。
「俺は射撃大会じゃ一番なんだぜぇ!」
二丁拳銃が火を噴き、アーヴェントにまっすぐ飛んでいった。
「ふん。おもちゃか。」
アーヴェントは瞬間的に横にかわした。
「違うッ!俺の本当のねらいはっ!!」
レーザーが命中したのは、さらに後方のシーリアを捕まえているデス・グリーンズだった。
シーリアを縛ってているツルごと焼きはらって、解き放つことができた。
しかし、意識が回復していないのか、倒れたままである。
「やったわ!すごい!」
「貴様ら....俺を怒らせるな..僕の邪魔をするんじゃないっ!!」
「アーヴェントっ!!俺とか僕とか一人称がおかしいわよっ!!」
ダッシュで駆けつけたフェアリイの無駄に女らしい服が一瞬にして闇の鎧に変化し、手には長刀と盾が現れた。
「今日だけ特別だぜ!私の名はファータだっ!」
「ひょ〜、怖ッ。かわいいバラには刺があるってな。口だけじゃぁねぇようだな。ぢゃ、俺も気合いで輝みたくパワーアップっていうか覚醒しちまうか。」
「主、そう簡単にいくものなのか?無龍のようによぉ。」
「任しとけ。行くぞ。気合いだ気合い!!うおぉぉぉ!!!!」
「うおおおおお!!!!」
「うおおおおお!!!!」
エンブレム、虹色のクリスタルが輝きだし、さらに夏旺の周りの林をデス・グリーンズごと焼き尽くし炎の海となった。
「我が名はっ!ステュ...なんだっけ?」
「頼むぞ主。スティラートだ。」
「我が名はスティラートッッッ!!!」
その瞬間大爆発が起き、エンブレムのクリスタルが輝の時のように割れて、中から燃えるような鮮やかな赤色のクリスタルが現れた。
そして、赤龍も同じく燃えるような赤色の、体に炎をまとった龍へと変化した。
「ヨッシャー!!お前の名前は爆龍だぜぇ!!いいかッ!!?」
「いいな!それ!まかしとけってんだ!」
「あのバカ...また何かやってるな...まさかまた新しい力を...」
「よそ見なぞしていていいのか?ファータ! フン、闇の鎧か。かわいいものだな。俺はそんな物は必要ない。ハンデかな。」
「くっ...なめたこと言ってンじゃねぇ!!」
アーヴェントは暗黒の大剣、ファータは暗黒の長刀で激しく戦っている。
「とうさん、手出しは要らないよ。この小娘は俺が殺す。お前はスティラートを殺せ。」
「承知した。」
ウェスペルは、スティラートに向かって走っていった。
「どうしたの?...ファータちゃん。魔界四天王の一人の君の力はそんな物なの?」
「喋り方がころころ変わって気持ち悪いぜッ!!!貴様がその四天王をこんな事にさせちゃったんだろうがッ!!」
「ほぉ〜。威勢がいいじゃぁねぇか。いたぶり甲斐があるってもんだ。」
そう言うと、アーヴェントは暗黒の波動でファータを突き飛ばした。
「くうっっ...効くぜ...」
「すぐに殺しちゃ面白くないからね。まだまだだよ。クククク...」
「オヤジの方が近づいてきたぞっ!!こんな事もあろうかとっ!!」
スティラートはポケットからカプセルを取り出し、スイッチを押した。
すると中からバズーカ砲が出てきた。
「魔法でヨォ!こんなことできるかな?うおおおおお!!」
そう叫ぶと、バズーカ砲が赤色に変色し、赤色の強化部品のような物が現れ、さらに大きな大砲へと変化した。
「凄そうだな。主。その大砲は。」
「ふん。そんなものは我が暗黒の力にはおよばぬっ!!」
ウェスペルは瞬間移動しているのか、スゴイ早さで近寄ってきた。
「主!撃ってはならぬ!近すぎる!ここは我が炎で!!」
「は、早ッ!!近ッ!!まあいい!ファイヤーッ!!!」
「ど〜ん」
爆龍の火焔放射、スティラートのバズーカ、ウェスペルの攻撃が同時に衝突した。
凄まじい大爆発で相打ちのようだ。爆龍も含めぶっ飛ばされていた。
「ウェスペル...気が途絶えた....だがスティラートも同じだ。」
「あいつは死んでも死なないわッ!!」
「五月蝿い。」
アーヴェントが大剣を大振りすると、闇の衝撃波がファータを斬りつけ弾き飛ばした。
彼女の鎧はかなりダメージが激しいようで所々欠けてきている。
「痛ッ....うっ....やるな..」
「もうそろそろ飽きたな。殺すか。」
「まだまだ行ける....きゃぁっ!!」
いつの間にか背後に回り込んでいたデス・グリーンの一人がファータを羽交い締めにした。
「うっ...貴様!...汚ねぇぞ!!」
「だって、もう飽きたんだもん。さっさと殺しちゃいたいんだ。それともじっくりこいつに絞め殺される方がお好みか?こいつは<闇>のエネルギーも栄養分だからちょうどいいな。」
「なんで....こんなにいるんだ?.....さっき私が...あんなに始末したのに..」
「あれで始末だって?片腹痛いわ。なんだも言うように、闇の力はエネルギーだ。それで始末しても、すぐにこいつらはより強くなってよみがえるさ。」
アーヴェントはフェアリィの首筋に大剣の先を突きつけた。
それと同時に、デス・グリーンはそのまま暗黒の木に変化して、ツルでフェアリィを締め付けてきた。アーヴェントの闇の力も加わり強くなっているのか、さっきの数十人ぶんのツルよりもずっと締め付ける力が強く、闇の力を吸い取られ、ファータはもがくことすら出来なくなった。
「どっちにしようかなぁ〜。」
「ううっ...苦し...さっきのやつとはケタ違いに強いな...くっ」
「僕は苦しむ顔を見るのが大好きなんだぁ...ククッ。強気な態度はどこ行ったの?ま、いっか。時間もないし、僕が今殺そうかな。」
「まさか...アーヴェント..貴様には...くぅっ..」
「ふん。お前ごときの暗黒の力で、この魔界を統べる俺の力にかなうわけがないだろう。身の程知らずめ..死ね。」
「やっぱり....アーヴェントは.......ちくしょうっ..」
「待てーい!!お嬢さんをいじめちゃいけねぇぜ!!」
「スティラート....まだ生きていやがったか...ウェスペルはまだ起きてこないのか...」
「つべこべ言うな!!芸術は爆発ダー!!!!」
「俺も吐きまくるぜぇぇ!!!」
バズーカの強烈な炎と爆龍の火焔放射が一気にアーヴェントをファータごと飲み込んだ。
「フェアリィは助けたぞ。」
「ナイス。爆龍。」
「熱いじゃ...ねぇか....まったく...」
どさくさで、爆龍は焼き払ったデス・グリーンズからフェアリィを助け出した。
しかし、フェアリイも力を消耗したのか、鎧は元の服に戻り、気を失ってしまった。
「ついでに今の間にあそこに倒れてるシーリアも助けて来るんだっ!!」
「イエス・サー」
爆龍は倒れているシーリアに向かって飛んでいった。
すると、その爆龍を横から巨大な闇の水流がたたき落とした。
「げぶちゃぁっ!!」
「爆龍ッ!!」
「我が<魔王>の名のもとにこれを捕らえよ。<封水の鎖>」
すると、かろうじて炎を逃れた残り少ないデス・グリーンズは、再び倒れているシーリアをツルを伸ばして捕らえた。
「なっ...まさかアーヴェントに...ま...ま..」
「このガキから水の力ももらうことが出来た。貴様らの新しい力にも対抗できるかもな。」
「ちくしょぉぉ!!そう言うことだったのかぁっ!!!!シュートッ!!!」
「<闇の轟流>」
「うあああああああ!!!」
炎は暗黒の水にかき消され、スティラート自身も吹っ飛ばされた。
「エンザークのお姫様も、いい力持ってるじゃないか。ククク...」
「− 機能再起動。修復完了デス。 −」
「ふう。長くかかったな。夏旺達はどうしてる?」
「分からぬ。しかし、スティラートは覚醒したようだ。だが、今はアーヴェントの気しか感じない。」
「なに?それを早く言え。」
「何度言ってもぴくりとも主は動かなかった。」
「そうか...かなりダメージがあったんだなぁ。まぁいい。行くぞ。」
「あのデス・グリーンズとやらにシーリアが捕らえられている。おい主、下手に動くと見つかるぞ。」
冬星は、ウェスペルが起きてくるのをのんびりと待っているアーヴェントに、てくてくと歩いていく。すると、足元に気を失ったフェアリィが倒れていた。
「これは...夏旺だけならともかく...許さん。」
「主、安心しろ。大丈夫だ。フェアリィはただ..」
「アーヴェントは俺を本気で怒らせた。」
「話を聞いてくれよぉ!主ぃ!」
冬星は腕の収納庫からディスクを取り出すと、ベルトのバックル部分に挿入した。
「− 加速モード開始シマス。活動時間ハ120秒デス。警告・各機能ニ重大ナ損傷ヲ及ボス危険ガアリマス。 −」
「黒龍、こいつでポッドに連絡をしておけ。適当に。」
「主...」
「任せておけ。俺はどうなろうとやつは倒す。」
冬星は、右腕に収納されていたビームサーベルを持った。
「わが名はクレルフィデスッ!!」
「− 加速モード スタート! −」
その瞬間、エンブレム、虹色のクリスタルが輝き、エンブレムから銀色のクリスタルが現れて、黒龍も銀色の龍へ変化した。
「銀龍か。今の俺にはピッタリだ。」
突然、アーヴェントの剣がまっぷたつに割れた。
「な、なんだ!この気!凄く早いが!クレルフィデスなのかッ!!」
「科学の力をなめるな。」
通常黄色のビームサーベルの光が、クレルフィデスの力でまぶしいほどの銀色になっている。その残像が残る程度しか見えないほどのスピードでアーヴェントを斬りつける。
「− 残リ90秒 −」
「生意気なっ!!くらえっ!!」
「ぬっ!」
見えないはずのクレルフィデスに確実に剣を当ててきた。
「やるな...」
「ふんっ!!」
アーヴェントが気合いを入れると、剣が元に戻り、さらにもう一本の暗黒の大剣が現れた。
「− 残リ60秒 −」
「どりゃぁっ!」
クレルフィデスの剣は二刀流のアーヴェントに弾かれた。
「このスピードなのに...やつは何なんだ..」
「− 残リ30秒 −」
「銀龍!来いッ!!」
銀龍も猛スピードで飛んできた。
そして、クレルフィデスの鎧として融合した。
アーヴェントは、デス・グリーンズに動きを止めさせようとするが、弾き飛ばされてしまう。
「− 残リ15秒 −」
「行くぞ銀龍ッ!!」
さらにスピードを限界まで上げたクレルフィデスは、高速のまるで銀の光のようになってアーヴェントを斬りつけた。
「− 10 −」
「アクアシール一人に敗れる私ではないっ!!」
「− 9 −」
「くらえ!コレは爆龍のぶんっ!」
「− 8 −」
「コレは夏旺のぶん!」
「− 7 −」
「コレはシーリアのぶん!」
「− 6 −」
「これは....」
「− 5 −」
「..これはフェアリィのぶん!」
「− 4 −」
「そしてこれは...」
「− 3 −」
「...この俺の怒りだぁっ!!」
「− 2 −」
「そんな...この<魔王>が...」
「− 1 −」
「サヨナラだ。」
「− 0 加速モード終了デス −」
加速モードが解除され、スピードは元に戻り、ディスクを取り出し腕に収納した。銀龍も元のように分離した。
その瞬間。スゴイ爆発が起こった。
■ 過去 エンザーク 未開拓地帯 ■■■
エンザークは、宮付近は非常に文化的にも発達しているが、まだ、この時点では未開拓地帯も多く存在した。そこでは未だに魔法もあまり発達しておらず、非魔法法的な技術も多用されていた。
「今月も雨が降らぬ...これで3ヶ月じゃ...」
「宮の者共は裕福な暮らしをしているというのに...」
「龍騎士として選ばれたクレルフィデスも、ここ最近は帰ってこない。」
「とうとう、、儀式を行うしかないんかのう....」
「しかし!それは神に逆らう儀式!なりませぬ!!」
「だが、村がこのままでは滅ぶ。」
「闇の村とよばれてどうせ他の村からも嫌われている。」
「占い師の話を聞いてくるんじゃ。」
「占い師の話では、ファルコスの娘、ファータが適当とのこと。」
「なに!ファータじゃと?あの気兼ねも良い明るい子を?」
「婚約までしたクレルフィデスがなんと言うか..」
「しょうがあるまい...村のためだ。きっとやつも新しい人生がある。」
「え?私が!?そんな!そんなことって....」
「長の命令だ。村のためだ。諦めろ。」
「嫌!まっぴらごめんだわ!そんなことで村が助かるなんて思ってるの!いやぁ!!」
「<眠りの闇>」
「そ...んな...」
「ここは魔界へと続く穴。魔王よ....この娘と引き替えに村に水をもたらしたまえ...」
「ファータ...せめてクレルフィデスには連絡をしといてやるよ...」
「ここは...どこ?夜?真っ暗だわ...」
「そうよ...私は村のやつらのせいで...許せない....」
「ちくしょぉぉぉぉぉ!!!!魔界に!私を!よくも!くそっ!!」
「おい」
「誰だっ!」
「そう精神を乱すな。闇にとりつかれるぞ。」
「....誰?」
「俺はアルマ。昔俺は汚い手で貧しい者を苦しめる役人を何人も殺した。しかし殺しは殺しだ。罪滅ぼしにと思って魔界に来た。」
「なにをしているの?」
「クロース陛下がいらっしゃる。そのもとに仕えている。」
「私はファータ。村のやつらはゆるせねぇ。」
「すでにお前が来ることも陛下は予知していた。ああ..こんなにすぐに闇に染まってしまったのか...憎しみを魔界で持ってはならぬ。憎しみを持つと闇に心を乗っ取られて人間ではなくなってしまう。陛下は浄化して下さるはずだ。」
「ありが...とう。私も連れていってくれるのね。よろしく、アルマ。」
「ああ。」
■ エンザーク 森付近 夜 ■■■
「フェアリィ...」
夏旺のことはそっちのけで冬星はフェアリィの所へ走った。
「....目を開けてくれ...おい!」
「...」
「ちくしょぉっ!!!」
「...うるさいわね...どうしたっていうのよ...」
「へ?」
「..まさか...死んだとでも思ったの?まったく...」
「良し...」
「ちょ...クレルフィデス...しっかりしてよ!」
冬星は、その場にばったりと倒れ込んだ。
■ エスタシオン航空宇宙局医務セクション 夕方 ■■■
「急患です!真澄先生!」
「私に急患?今ではカウンセリングが仕事の私にどういうことですか?また冗談を...」
「はぁ、はぁ、あまり大きい声では言えないんですよ。彼です。あのPT-00DRの。」
「都築冬星君が?確かにそれは私の<任務>ね。なにがあったの?」
「本人はまだ意識が戻りません。友人の渡良瀬夏旺君は、加速モードを使ったらしいと言っています。」
「加速モードを?ムチャをしたんですね..なんのために?」
「それが...ただ『急いでくれ』としか...」
「まぁいいわ。実際、プロトタイプとしての任務は終わって、問題さえ起こさなければ一般人と変わらない暮らしをしてもいいと言われているんですし、彼のことですから悪いことではないでしょう。いいわ。行きましょう。」
「機密治療室に入っています。」
「分かりました。」
■ エンザーク ポッド内 ■■■
「冬星は、夏旺が俺達の世界に連れてったらしい。」
「樹、真澄先生ってどんな人なの?」
「ああ、いい人だ。しかし、あの人がサイボーグ研究にも関わってるとは意外だったなぁ。」
「っていうか、俺は冬星がサイボーグだって事に驚いたな。ビビルって。」
残った三人である。
「でも、あと完全に覚醒してないのは、僕だけなんだよね...」
「何、希、心配するな。夏旺なんか気合いで覚醒したんだ。あせることはない。」
「そうそう。お前もビバファイト飲むか?」
「輝ったらまだ持ってたの?幾つ持ってきてるのさ!!ハハ!」
「しかし、二段階覚醒か....おれも...したいなぁ...かっこいいしなぁ...」
「おい!樹!気ぃ抜いてンじゃねぇ!まだ<魔王>は生きてるんだからな!」
「とんだ災難だったな、ファータ。」
「アルマ、だから、フェアリィだって言ってるでしょ。それにしても、参っちゃったわよほんと。二回もデス・グリーンに捕まっちゃうなんてさぁ。苦しいしキモイし臭いし..まだ服が臭うんだから!」
「本当だ、くぅ〜。しゃれにならんな。これは。」
「ちょ、カシュウ、なに嗅いでるのよ!」
「まぁ良かったではないか。デス・グリーンは闇の一族ではあるが、闇の力を持つ者の天敵でもある。今後は気を付けろ。フェアリィ。」
「心配してくれてありがと。クロース様。」
闇の三人、そしてカシュウである。
「またお前はそんな口を...しかし、まさかアーヴェントは魔王の取り憑くための器としてうまれてきた者だったとはな..」
「賢者の予言も外れていなかったわけだ。何しろ、魔王とエンザークの民からよばれていた私は、一度も魔界から刺客を送ったりした覚えもない。私が動いたのは今回くらいなものだ。本物の<魔王>の仕業だろう...」
「と言うことはクロ−ス、本物の<魔王>は...」
「ああ、フェアリィの中のファータのように、憎しみや恨みの固まりと言ったところだろう。」
「あ、賢者さん達は?」
「見てみろ、あそこで仲良く寝ている。」
「かわいぃ〜!!」
「よし、着いたぞ。さっき冬星達の戦った場所だ。」
■ エンザーク 森付近 夜明け ■■■
「アーヴェント!しっかり!」
「....」
「駄目だ、希、既に心臓も止まっている...」
「嘘だろ!樹!なんで!魔王のやつのせいで!!」
「落ち着け、エスペランサ。前にスティラにも言ったが、憎しみは魔王の力を増大させることになりかねん。」
「そう言えばそうだったな、爆龍、私の主にも言っておかなくては。さっきのようなことが続けば大変だしな。」
「ごめん...赤龍と黒龍...じゃなくて爆龍と銀龍だったね。でも..このままアーヴェントを行かせたくないんだよ...せっかく出会えたんだ..」
希の目は真っ赤だった。
「我が名は!エスペランサッ!!」
すると、エンブレム、虹色のクリスタルともに激しく輝き出した。
とうとう、覚醒の時が来たのだ。なんと、さらにエンブレムの中から太陽のようなクリスタルが出てきて、黄龍の中からも輝く龍が出てきた。
「エスペランサ....兄さん...??..僕....どうしてここに...?」
「もう大丈夫だよ。安心して。僕もよりパワーアップした覚醒できたみたいだ。龍の名は<光龍>なんてどう?」
「いいな、主。それ。」
「やっぱり、魔王が取り憑いてたのね..もしそうじゃなかったらぶっ殺すところだわ。」
「怖いこと言うねぇ〜。お嬢さん。」
「ウェスペルよ..大丈夫か?」
「クロース陛下....アーヴェントは...」
「ああ、無事だ。心配するな。エスペランサが復活させた。クレルフィデスの力によって、真の魔王を追い出すことに成功した。アレグリーアもちゃんとあの銀の舟に保護している。」
「やはり...器だったのですな...アーヴェントは...」
「そのようだな。真の魔王の実体化した体が欲しいという欲望がそう言うことを起こしたのだろう。」
「なるほど、カシュウ、しかし、その、真の魔王は今どこに...」
「アルマ、それなら心配は要らないはずだ。やつは既にシーリアが手中にある。ここぞとばかりに体制を整えて襲ってくるだろう。」
「その時間は、次の夜、だろ?」
「その通りだ。クロース。」
(シーリア...我が妹よ...エンザークに無実の罪を着せられ、裏切られた過去はどうでもいい。今は兄として...兄として...)
■ エスタシオン航空宇宙局医務セッション 夜 ■■■
「ふぅ...みんな、お疲れさま。急げばこんなに早く治療できるものなのね。いや、修理かしら。私の腕もまだまだ行けそうです。」
「再起動は、5分後ですね。」
「ついでに、エネルギー系統のメンテナンスもしっかりね。消化系統と、蓄電池、空気電池、後、オイルもサービスしといて下さい。」
「わかりました。滅多に来ない患者さんですから、ばっちり健康にしておきますよ。」
待合室で夏旺と真澄が話している。
「夏旺君」
「なんだ?」
「本当のところ..あなた達、何をしているの?」
「....」
「言えないならいいわ。そこでは、樹君も一緒よね?」
「なんで分かるんだ?」
「最近彼もなんか違うのよ...」
「はぁ...」
「でも、心配しないで。彼がここに来るときは、いつもコーヒーを飲むの。」
「それが?」
「最近、ビバファイト・Sを混ぜてみてるの。彼は全然気づかないけどね。」
「マジ?」
「そりゃもう。濃縮して入れてあるんだから、いくら鈍い彼でもそろそろ効き目が出るんじゃないかな?」
「はぁ...先生も先生だが樹も樹だな...」
「をす。」
「うひょぉよよほぉぉ!!!びびるじゃねぇか!冬星!もう大丈夫なのか?」
「ああ。どうにか自動修復機能は生きてたみたいだ。」
「そうなの。彼自身がすぐにでも治りたがってるみたいに、自動修復が頑張ってくれて、こっちも楽だったわ。」
「ありがとう。メンテまでしていただいて。」
「礼には及ばないわ。」
「じゃ、急ぐから、金は...」
「サービスよ。」
「サンキュゥ!!」
その瞬間、突然大きな揺れが始まったた。地面が揺れると言うより、空間が揺れるといった感じだ。
「な..なんだ??」
「ニュースでは、エスタシオーネス全体で起こってるみたいなことを言っているわ!」
「時空が乱れてきているんだ...さっき、友人からのメールを読んだら、惑星誕生のパラレルワールド説があった。つまり、エンザークのあるあっちの世界が、シーリアの載冠によって、五大陸が、おそらくこのエスタシオーネスになるハズなんだ。それなら、教会のことにしても、龍の思想などのことにしてもつじつまが合う。」
「そ...そうなのか...?冬星にしちゃ良く喋るもんでビックリしちまって...」
「急ぐぞ。おそらく、その載冠が現実にならなくなる可能性が出てきてるんだ!!」
「今の意味はよぉく分かったぜっ!」
「じゃぁな、真澄先生!今の世界は俺らが守ってみせる!!」
「え...?守る...?」
夏旺、冬星の二人は、真澄の目の前で風とともに姿を消した。
■ エンザーク ポッド内 朝 ■■■
「あ....」
「どうした樹?」
「なんかな、スゲーむかついてきた。」
「は?」
「結局、アーヴェントに取り憑いていた真の魔王にみんなだまされてたんだよな。」
「そういうことなんだけどね....」
「駄目だ主、さっき爆龍も言っただろう。憎しみに己を任せてはいけない。」
「ああ、だが、すっげーむかつくんだ。内側からずんずんきやがる。クロースと俺の友情もやつのせいで...」
「マァ待て、樹、俺が、この無龍のフェイネルさんがよぉ、心の鎮め方教えてやるよ。どうせマダ時間はある。」
「すまない...」
「目を閉じな。そして、何も考えないんだ。心をからにしてみろ。スッカラカンだ。」
「....」
「どうだ?いい感じだろ。そして、自分を信じて自分の力を感じる。ま、そんな感じで俺は覚醒しちまったんだけどな。」
「.....」
「ちょっと待ってよ、輝!ねぇ!樹が!」
「うおお!まさか!樹も新しい力を!!」
その通り、エリュージュのクリスタルの中から空色のクリスタルが現れ、青龍も空色の鮮やかな龍へと変化した。
「俺も...出来たみたいだな、輝大先生よ..空龍。いいんじゃないか?」
「すごいよ!これでみんな、新しいアクア・ディーオ・カヴァリエーレだよ!」
「(真澄先生..まさか...シロップの代わりに栄養ドリンクだったとはなぁ...俺の好みだ...)」
■ 数時間後 昼 ■■■
「どうだ?希?ポッドに装備されてる武器は使えそうか?」
「う〜ん、機械は良く分かんないけど、この設計図通りだったらいいんでしょ?大口径パルスレーザー2門、LB-Xオートキャノン2門、小口径ERレーザー6門。多分オッケーだよ。」
「よし。輝、積んである武器の方はどんな感じだ?」
「ああ、樹、中距離バズーカが2、長距離20連装ミサイルランチャーが1でミサイルが600。それに、ビームサーベルはごろごろあるな。レーザーガンもたくさんある。あ、レーザーシールドが2つ。パルスレーザーガンも1つあるぞ。すげぇ、これ、粒子ビーム砲だ!磁気ライフルも!ウルトラオートキャノンも!長距離誘導ミサイルまで!すげぇよ!さすがだぜ!売ったらどんな値段に...」
「分かるか?アルマ?」
「いえ..陛下...まったく...」
「輝ぁ..無心だろ。第一、エンザークじゃ売れないだろうし、向こうに持って帰っても密売だぞ。これで、どのくらい魔王に効くのか...」
「そういえば我が主スティラは大砲を炎の力で強化していたぞ。」
「なるほど、そう言う使い方もあるのか。!」
「あれ?カシュウは?フェアリィも?ねぇ父さん?」
「気にするな、アーヴェント。あいつらのことだ。どこかふらっと出かけてるんじゃないのか。」
「のんきなやつらだぜ。早く夏旺と冬星帰ってこないかなぁ...」
■ 数時間後 ポッド付近の林 夕方 ■■■
風が吹いた。
「お、スティラート、帰ったか。」
「冬星は?やっぱし全く同じ場所に出るのは難しいカァ...」
「大丈夫なのか?クレルフィデスは?」
「ああ、科学もまだまだ捨てたもんじゃないぜ。しかしよぉ、カシュウさん、あんた、元気ねぇぞ。」
「...そうか?」
「ああ、いつものあんたじゃねぇ。」
「そうか....」
「クロースのことか?」
「......」
「あのよ、クロースももうガキじゃねぇ。そこら辺のことも整理がついてるはずだ。ま、この戦いが<無事に>終われば、じっくり話し合えばいい。例のグラスも、持ってきてやるよ。」
「そうだな...ありがとう。」
「吟遊詩人なんだろ?ま、歌おうぜ。ん〜ふ〜ふふ〜ん〜」
「なんだその歌は?」
「しらねぇよ。今考えたんだ。それともラップがいいか?Hey!Hey!YoYoYoYeah!今夜ものっていこうぜ!チケラッチョ!とか?」
「う〜む..まだまだこちらの修行も必要だなぁ...ん〜ふ〜ふふ〜ん〜」
「ん〜ふふふ〜んふふ〜ふふんふ〜ん」
「ふふ〜んふ〜ん.....」
■ 同時間 ポッドから少々離れた湖 夕方 ■■■
風が吹いた。
「バシャーン」
冬星が下りたのは湖。
「しまった..湖...防水加工で良かった...」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
突然冬星に向かって何かが飛んできた。
「どーん!!」
「ぐはっ....闇の力...敵か?」
「ちょ!敵か?じゃないわよ!クレルフィデス!なんでこんな所にいるのよ!しっ!しっ!」
「なにしてるんだ?」
「だぁぁ!覗いといて何言ってンのよ!見るなって!」
「あ、ああ、そうか、すまない。」
「いいわ。服着たから。まったく...貴方が覗きをするとは思わなかったわ。せっかく綺麗な湖を見つけて、いい気分でさっきの草臭さを落としてたっていうのに...」
「すまない。」
「すまないじゃすまないわよ....ま、いいわ。」
「おい...」
「何?」
「俺、思い出したんだ。」
「やっと?でも、もういまさら....」
「すまない。村のために生け贄になるお前を救うことが出来なかった。あの時エンザークが..おそらく真の魔王の仕業だろうが..載冠式の遅れによって崩壊の危機だったなんて..言い訳にならないよな...」
「ありがとう。でも、私はもう昔の私じゃないし、貴方はここの人間じゃない。」
「生き方なんて、気持ち次第でどうにでも変えられる。俺は、この体になってつくづくそう思った。」
「なんでこうして再び出会っちゃったのかしらね。」
「......」
「あのさ...クレルフィデス...いや...冬星...どっちのあなたも..す...」
「伏せろっ!!」
巨大な闇の衝撃がつっこんできた。そう、とうとう夜がやってきたのだ。
「逃げるぞっ!!」
「...わかったわ!」
二人はダッシュでポッドまで走る。
「ねぇ!」
「ああ、お前の気持ちは分かってる!」
「.....」
「とっととこいつ片づけて、それからだ!」
「最高!」
■ ポッド内 ■■■
「すまない、待たせたな。」
「ごめんごめん、遅くなっちゃった。」
「ほぉ、オフタリサン、何してたんだい?手までつないじゃって?」
「あ...」
「輝、あんましからかうんじゃねぇ。こいつらは昔ッからそう言う仲なんだよな。」
「主、それもからかってるというのではないのか?」
「夏旺、そんな場合じゃないだろ。そうだ、冬星、夏旺、俺と希も新しい力を得ることが出来た。」
「その通りだ。私が空龍、黄龍は光龍となった。」
「すごいな...クロース、どう思う」
「ああ、カシュウ、これなら負けるはずがない。」
「クロース陛下の力もありますしな。」
「僕も迷惑かけちゃったみたいだけど、十分クロース様のために戦えるさ!」
「アーヴェント、今のお前がお前らしいぞ。やっと、親子になれた気分だ。」
「いやはや...たいへんなことじゃのう...」
「さ!八時だよ!全員集合だ!」
「輝...それって....」
「皆、聞いてくれ。私は魔王と呼ばれ恐れられることになってしまったのだが、心はエンザークにいた頃と変わっていないと信じている。はるばる危機のためにやってきてくれたアクアの五人とその龍達、、再び集結した魔界四天王、そして、我が尊敬すべき父カシュウ。」
「わしらも忘れんでほしいのう。」
「ん..んむ。それに賢者のお二方。我らの目的は何か。魔王を倒す?それは確かだ。真の魔王の目的は、エンザークも憎しみと恨みの魔界に変えてしまおうということだ。魔界も、エリュージュの話では、今のアクアの世界と同じように、もう一つの宇宙だ。そしてそこは、光が存在しない末期の宇宙だそうだ。真の魔王は、人の心の醜い闇の固まりだ。既に情報ではやつは夜の間の五大陸それぞれで無差別に人を殺している。そして憎しみと恨みを闇の力に変えてここへとやってくるのだ!やつを清らかな心で倒し、我が妹、いや、王女シーリアを助け出し、載冠式を迎える。それこそが望まれるべき未来であり、我々もそんな世界で暮らそうではないか!」
「陛下...」
「よっしゃぁぁぁ!!!!」
「いくぜぇぇぇぇぇ!!!!!」
外には大きな闇の固まりが迫っていた。
「我が器をよくも...貴様らは許さん....この世界を全て...憎しみと恨みの闇で閉ざすのだ...クククク」
「「「「「我らが名はっ!!アクア・ディーオ・カヴァリエーレ!!」」」」」
風が暗黒の草原を駆け抜けた。
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