■Urban legend −夜明けの街−■
第2話 「謎の都市、暁月市」 ■担当:架倉鳥朱■
■――A.D. 20XX トーキョー某所、交番■
「はぁ、いないわね」
久扇子は、一覧になっている名前の書かれた紙をパラパラとめくっていた。そして、それを見終えるとため息をつく。
行方不明者の届け出の中には、静音という名前は見つからなかった。彼女は、この近くに住んでいたのではないのかもしれない。あるいは、彼女の届け出は出されていなかったのか。
久扇子は席を立った。
「えっとぉ……」
壁際にある棚の中から、目的の資料を探し出そうと悪戦苦闘する。あまり整理整頓されていない、膨大な量の紙の束や冊子が並べられているそこから、見つけ出すのは至難の業だった。
この間も取り出したはずなのに、どうしてもっと見つけやすい所にしまわなかったのだろうと、久扇子は少し後悔していた。
「あ、あった。確かこれだわ」
長い指先が目的の冊子にぶつかり、久扇子はそれを取り出した。目次で確認してから、ページを開く。
読みながらデスクに戻ると、しばらくはそれに目を落としていた。
「久扇子ちゃん。また、行方不明者のこと調べてるの? あなたのお友達って、まだ見つからないのね。どうしちゃったのかしら。心配ねぇ」
声が聞こえ、ページに影が出来たので慌てて振り返ると、そこには先輩が立っていた。彼女は、新米の久扇子の面倒を見てくれている三十代半ばの女性だ。最近子供が小学校にあがったらしく、母親らしい感じも見せる柔らかい雰囲気の人である。
「いいえ。瑞穂ちゃんは、見つかったんです。けど……」
久扇子は言葉を濁らせた。
「あら? 結局、どこにいたの?」
「……彼女が私に行くといっていた、映画館です」
「それじゃ、彼女はやっぱり暁月市に迷い込んで神隠しにあっていたと?」
「そうらしいです」
「にわかには信じがたい話ね」
そんな場所なんてあるわけがない、とでも言うような、ぴしゃりとした言い方だった。優しい人ではあったが、彼女は現実主義なのだ。
非現実的で不可解な現象など、話しても信じるはずがないのに、どうして話してしまったんだろう、と久扇子は思っていた。失踪の理由など、適当に繕って言えば良かったのだ。
しかし、次に彼女の口から出てきた言葉は、思いもよらないものだった。
「でもね、行き先不明で行方不明になった人は、そこに書かれてる届け出のあった件数じゃ考えられないくらい数え切れないほどいるし、人が消えてしまうなんていう考えられないような現象は、稀に目撃証言まであったりする。もちろん、私だって最初は信じられなかったわよ? ……この辺りは人通りも少ないし閑散としてるから、あまり事件っていう事件もなくて平和でほとんどないけど、人が多いところであればあるほど、そういうことって起こるらしいわ」
「……え?」
「おかしな話よねぇ」
人が少ない所での方が起こりそうなのに、と、彼女は言い残して行ってしまった。
残された久扇子は、デスクで椅子に座ったまま考え込んでいた。
「人の多い所ですって?」
もちろん、人が多ければ絶対的に行方不明者の数も増えるだろう。でも、もしそれが暁月市に関係していたとしたらどうだろう。
久扇子はPCを立ち上げて、インターネットで検索をした。勝也が言っていた通り、暁月市という単語ではかなりの件数がひっかっかる。いくつかクリックをして、その中の一つに目が留まる。
――暁月市(あかつきし)。
入り込んでしまうと、稀に戻って来られることもあるが、ほとんどの場合は戻って来られない。しかし、暁月市に行くといって行方不明になった者が本当にそこへ行ったかどうかは確かめられないので、実際にどうであるのかは不明。暁月市の存在には、普段は気付くことがない。暁月市の中は、行った人によって様々な都市に見えるようだが、いずれもほとんどの場合、暁月市と繋がった場所も内部も都市であるらしい。
「都市……?」
どうして都市で人が消えるんだろう、と、ふと疑問が頭に過ぎった。
■――A.D. 20XX トーキョー某所、倉庫街■
久扇子が調べ出す前日。つまり、彼女がGINに登録されたその日の夜。
勝也はまだ落ち込んで沈んでいる様子で、時々神居の方を見ながら正座をしたままだった。その横で、久しぶりに再会できた久扇子と瑞穂は話に花を咲かせている。
神居は初めこそ途方に暮れていたが、何とか気を取り直すと、二人と勝也に声をかけた。
「早速ですが、次の仕事があるんですけど、どうしましょう?」
「仕事〜? さっきのあの人は、何にも言ってなかったわよ」
「どんな仕事っすか」
GINの仕事は終わったばかりなのにもう仕事があるのか、と驚きながらも興味津々の目で見つめてくる三人に、神居は答えた。
「依頼人は静音という女性。内容は……彼女について、調べることです」
本当は、少しだけ違う。でもそのまま伝えてしまうと、彼女が彼女を探して欲しいということになるわけで、混乱すると思い言葉を置き換えたのだ。
しかし、それでも奇妙にとられてしまったらしい。
「何なのよ、それ。それって、依頼人本人のことを調べるってことよね?」
「……記憶でも失ったんすか」
久扇子と勝也は怪訝そうな表情を示したが、瑞穂はなぁんだ、と口元を緩めながら言った。
「ふーん、そんなこと頼んでいたの、あの子。静音ちゃんって、映画館で神居さんと一緒に居た女の子のことでしょう?」
久扇子は瑞穂に尋ねる。
「映画館って、暁月市の?」
「うん。でも自分のこと調べて欲しいってことは、彼女も帰れなくなっちゃってたのかなあ? んー……私だってクミちゃんに聞いてさっき知ったばっかりだけど、ちょっとしかいなかったつもりなのに、もう二週間も経ってたっていうでしょ。あの子って暁月市のこと詳しく知ってるみたいだったし、大分前にあそこへ行って自分がどこから来たかってこと忘れちゃったとか、ね?」
おどけた調子で瑞穂は言うが、実際、彼女は先程時間の経過を聞いて驚愕したばかりなのだ。神居が探しに来た時も失踪日数については彼女に伝えたのだが、本気にはしていなかった。
まさか、本当にそんなに長い時間が過ぎていたとは思わなかった、と。
「……まぁ、そんなところですか。僕は引き受けましたが、この依頼は金銭的には無報酬なんです。勝也君はともかく、久扇子さん達はどうします? やりますか?」
「無報酬ですかぁ。ま、当然ですよね。暁月市にずっといるんですよお? それに自分のことも分からないんじゃ、報酬の出しようがないわ」
瑞穂がそう言うと、久扇子も頷きながら、彼に尋ねてきた。
「ねえ、神居君。具体的に、どんなことを調べるの。その子、静音だっけ……そういう名前の行方不明者がいないかを調べるんなら、私にもやれるわよ」
「あれ、いいんですか?」
神居は新しく入ったばかりの仲間に、驚いたように聞き返した。もともと、自分の都合で引き受けたような依頼だったのだ。断られれば、自分一人で調べることも覚悟していた。
「当ったり前じゃない。それにねっ、人ごとじゃないわよ、その話。私、さっきまで、瑞穂ちゃんがいなくなってたこと心配してたのよ? それに、警察官としても、記憶喪失の行方不明者なんて放っては置けないわ。で、どこにいるの? その静音って子。とりあえず、連れて来なさいよ。どこで暁月市に迷い込んじゃったかは分からないけど、こっちの世界にいた方が住所だって見つけやすいでしょ」
「あのさ! クミちゃん」
捲くし立てる久扇子に、瑞穂は彼女の袖を引っ張って声をあげる。
「……何?」
「暁月市って、これ私の予想なんだけど……誰でも、簡単に出てこれるってわけじゃないと思うわ」
瑞穂は、自分が見た面白い映画や、その映画を作った映画監督の話をした。
瑞穂には、まだスクリーンに吸い込まれて映画のヒロインを中で体験したという余韻が残っていた。現実ではないから、時間的にはストーリーが進んでいくのは早いけれども、実際に泣いたり笑ったり怒ったりしながら、リアルな感覚で今までにない映画の見方をしたのだ。映画好きでたくさんの映画を見てきた彼女にとっても、これほど迫力のあるものは初めてであり、彼女の心をとても熱狂させた。
忘れられないどころか、まだ目に焼きついて離れないようなシーンが、いくつもいくつもある。
これほど満足できた映画は、生まれて初めてと言ってもいいくらいだった。
「多分、自分が納得したら、何かしてみたかったことを達成できたら、出てこれるんじゃないかなぁって思うのっ!」
「天に流れた監督がそうだったようにっすか?」
しばらく黙り込んでいた勝也が口を開いた。別に何も喋ろうとしなかったわけではないのだが、姉とその友達がずっと喋り続けていたので、なかなか口を挟めなかったのだ。
「難しそうっすね。だけど、手掛かりか何かないんですかね。静音っていう名前だけじゃ、同じ名前の人間なんて他にもきっといるっすから。彼女がこっちに来れなくても、向こうにまた行ってもっと詳しいこと聞かなかったら見つからないんじゃないっすか? ……暁月市って、俺やクミねぇにも入れるんすかね」
「勝也君。暁月市には、僕がまた行きますよ」
神居は、PCに歩み寄り、届いたばかりの新着メールを見てから言った。
「……ビルの許可も下りたようですし、あなた方は、彼女のことはとりあえず今はいいですから、暁月市について調べて下さい」
「許可?」
勝也がPCを覗き込むと、そこには、
『先の依頼で出かけた場所を調査。詳細は後に。サーチャーは今夜中にアクセスよろしく。D・J-BILL』
というメールが表示されていた。
「GINに来た依頼ですかね」
「さぁ? とにかく、これで皆さんにも暁月市を調べて貰う理由ができたわけです」
うっすら笑みながら言った神居に、勝也は視線を逸らしながらため息をつき、残った二人は手を取り合って喜んでいた。
「やったぁー! クミちゃん、GINの初仕事だって!」
「そうね、私、こういうのすっごく憧れてたのよ! だから警官になったのにさぁ、ものすごーくのんびりとした平和なとこでね、スリルも何もなかったの……いや、悪いことじゃないんだけどね、うん。未知の場所、『暁月市』の調査かぁ……よしっ、頑張ろう!」
「えーっと……クミねぇに瑞穂さん。一応言っとくけど、これって仕事……」
勝也がおずおずと言うと、パシンッと頭を姉に軽く叩かれた。
「分かってるわよっ、勝也!」
「そうよぉ、勝也君! だから余計楽しみなんじゃないっ」
更にテンションが高くなった二人に、カーテンの隙間から窓の外を眺めて神居は言った。
「ところで……そろそろ皆さん、帰られた方がいいと思いますよ」
窓の外は、もうとっくに日が落ちていたようで、月も星も見えない真っ黒な夜空が天に広がっていた。
遠くは明るい光が発せられているのが見えるが、この辺りは、通りの外灯に照らされた道以外は暗かった。神居の家はその通りを少し入った所にあるので、蛍光灯の光る室内と対比されることもあり、すぐ外はかなり暗くなっているように見える。神居が住んでいる所は、少し歩けば舗装された道路に出るが、地面は硬い土になっていた。周りに住宅はほとんどなく、同じような大きさの倉庫が立ち並んでいる。
しかし、治安がそれほど悪いわけではない。でもだからといって、あまり遅くなってしまうのは、賢明とは言えなかった。
「あらら、もう真っ暗かぁ」
残念そうに言いながら立ち上がる。
勝也は、神居の方を振り返って聞いた。
「神居さん。明日はいつも通り、朝と夕方に来ればいいんですよね?」
「勝也君はそれでもいいですけど……」
神居は他の二人を見やりながら言う。
「お二人はそれぞれの仕事もあるでしょうから、個々に調べるということにしましょう。夜、この部屋に集まって、互いに情報を交換し合う、というのでどうですか」
神居の提案に、二人は了解した。
「OK! 私はそれでいいわよ」
「うん、私も! それと、神居さん、私まだ社会人ではなくって学生ですよお」
「……そうでしたか。すみません」
久扇子と瑞穂は、勝也を連れて玄関へ行く。
「じゃ、お疲れさまっす」
「あ、神居君。瑞穂ちゃん見つけてくれて、今日は本当にありがとっ。お疲れ!」
「ああっ、そうでした。神居さん、ありがとうございました! 明日から頑張りますねっ」
「どういたしまして。そういえば言い忘れていましたが、依頼とGINのことは絶対に他言無用でお願いします」
二人は一瞬真顔になると、次の瞬間、笑いながら頷いた。
「では。お疲れさまです……」
ガチャッと、扉が閉まった。
ドアを隔てた向こう側で、楽しそうなお喋りが聞こえる。勝也はいつもの元気が少しだけ縮こまっていたようだったが、緊張が解けたようで、いつの間にか元に戻っているようだった。三人とも、仲は良さそうだ。
彼女らの声が聞こえなくなり、気配が消えると、神居は支えていたものが崩れるかのように床に膝をついた。
「……つ、疲れた……」
精一杯虚勢を張ってみたものの、この状態が続くことは辛い。
「どうして、こんなことになったんだ……?」
これから仕事がどうなっていくのかも心配だったが、それよりも、あの二人の苦手なタイプの女性と今後も付き合っていくとなると、それに自分の気が耐えられるかどうかの方が不安である。
と、その時、付けっ放しになっていたPCの画面が目に入った。メールの内容を再度読むと、神居はふらふらとした様子でPCの前に座り、インターネットを開いてGINにアクセスする。
この時現れた、さも面白いものを見ているかのような楽しげな表情をしたビルが、これほど憎々しく思えたことはなかった。
『神居。あの穣ちゃんたちは帰ったのか?』
「えぇ……」
あまり乗り気には見えない神居に、ビルはわざと不思議そうに尋ねてくる。
『どうしたんだ? 折角、いい人材が増えたのに。それに、今度の仕事は人手があった方がいいんじゃないかぁ?』
「………………」
『おーい……神居〜?』
反応の遅い神居に、ビルは彼の名を呼んだ。神居は苦々しく笑いながら、口を開いた。
「ちょっと、疲れまして。まぁ、自業自得のようなものですから、仕方ないですけど」
『クミちゃんじゃなかったら、見抜けなかったと思うけどな〜』
ビルは久扇子が有能だと信じているようである。
少し、沈黙が訪れる。
「……今回の依頼、というか……あれは調査ですか、ビル?」
神居がそう聞くと、ビルは、にかっと笑った。
『お、分かってるじゃねぇか』
「文面がそんな感じでしたからね。しかし、何か気になることでもあるんですか、暁月市に」
『……まぁ、な〜』
ビルの表情が、少しだけ重くなる。
暁月市に、何か困ったことでもあったのだろうかと、ゆっくり不安が湧き上がる。
『その、暁月市っていう所だけどよぉ。GINのサーチャーが行方不明になるもんだからな、ちょいと調べてみたんだ』
「はぁ」
『暁月市関連で消えたんじゃないかって噂されてる行方不明者が、だ。ここのとこ、増えてるわけよ』
「行方不明者が……?」
驚いて神居は、ビルの方を凝視した。彼は全く困っているというような口調で、頬杖を付きながら先を続けた。
『しかも、探しに行った人間まで行方不明ときた。最初は半信半疑だった周りのやつもな〜、だんだん暁月市っていうのを信じるようになってきてるらしいぜぇ? 俺の知る限りじゃ、お前しか一人で無事に行って戻ってきた奴はいないんだよな〜』
「……そうなんですか」
『GINのサーチャーが、五人も行方不明になったんだぜ。普通の人間じゃ、自力でなかなか戻って来れないだろ。で、その神居が連れ戻してくれたサーチャーだがなぁ、話を聞いてみれば、二人ともこう言うんだ。あそこで彼女を見つけて映画館に入った途端、……それまでも苦しかったようだが……、連れ戻すという任務は覚えていた。だが、それを行動に起こそうという気力がまるで起こらない。こっちの世界に戻ってこようっていう選択肢が急に消えちまった、ってな』
「消えた、といいますと?」
『予測だけどな〜。暁月市とやらに飲み込まれたんだろ、尺度を』
「そうですか」
『でだ』
ビルは一旦会話を区切ると、神居の方を伺い見ながら言う。
『GINも、行方不明のサーチャーがまだ三人いることだしな〜。お前に、暁月市っていうモノの正体を突き止める……とまではいかないが、何か対策がないかどうか調べて欲しいんだ』
「ええ、分かりました」
即答して頷いた神居に、ビルは少々面食らったようだった。
『ありゃ? 意外とあっさり受けるんだな〜』
「丁度、新しく受けた依頼と重なっていますしね」
『依頼〜?』
神居は、暁月市で静音という女性に出会ったこととを話した。そして彼女が出した依頼、あの場所でそれを調査することで、自分が探していた何かが見つかるかもしれない、ということ……。
聞いているうちにビルは難しそうな顔になり、ちょっと下を向いた。それから顔をあげると、興味深そうに楽しげな様子で言った。
『余韻、か〜。そりゃ、調べる価値はあるかもしれないぜぇ。だがな、神居。ほどほどにしておけよ』
「調べるからには徹底的に調べますよ、僕は」
『そうだろうな〜。ま、油断も期待も禁物ってわけだ。暁月市って所は、未知の世界だぜぇ?』
「そうですね。肝に銘じておきます」
ビルは、ぐっと親指を立てる。
『じゃ、宜しく頼むぜ』
「りょーかい」
『あ、あとな〜』
「……まだ、何か?」
嫌な予感を感じながら、神居はおずおずと聞き返す。ビルはにやにやと笑っている。
『調べるついでに、行方不明になってるサーチャー探しとそいつらの受けてた二つの依頼も一緒に片付けてきてくれないか〜?』
調子よく依頼を追加するビルに、神居は溜息をつく。しかし、他のサーチャーに頼むわけにもいかないのだろうし、最終的にこうなるだろうことは何となく予測はついていた。
「はぁ……分かりました」
疲れている肩に、更に負担がかかったように思える。
『すまないな、神居』
「いいですよ。で、その資料は?」
『明日の早朝、メッセンジャーをこの前と同じ場所に寄越してくれ』
「りょーかい」
『じゃ、今日はお疲れだったな〜神居。明日からまた任せたぜ。GOOD LUCK!』
そう言うと、彼はログオフしていった。神居もログアウトして、そのままPCの電源を切る。
少しして、ディスプレイが真っ暗になった。
夜が更けていった。神居はしばらくの間、思考にふけると、ゆっくりと立ち上がって押入れから布団を取り出し、床に敷いた。
■――A.D. 20XX Unknown■
いつのことからだったのだろうか。
このことについて尋ねるのは、やめてしまっていた。答えが、決して返ってこないと分かったから。
それでも、延々と待ち続けてはいた。誰かが、何かを答えてくれるのを。
「風よ。私のことを教えて……」
穏やかな風が、彼女の周りを静かに渦巻く。しかし、彼女の掌には何も残らなかった。答えは、ない。何度尋ねても、なかったのだ。
「……やっぱり、分からないの」
彼女の問いに答えるかのように、風はくるくると回った。彼女は宙に浮かび上がり、やがて、ビルの屋上の手すりの部分に降り立った。傍から見れば不安定な場所に見えるが、彼女にとっては別にどうってことない所である。
彼女が立っているのは、ほんのりと青みがかった灰色の高層ビルの上である。しかしその周りの町は、いつまでも同じ風景ではなく、絶えず変化を続けていた。道路が変化する、建物が変化する、看板に書かれている言語が変化する……。
不意に、天候が変わった。青く晴れ渡っていた空は、急に白くどんよりとした雲に覆われ、厚みを増し黒い色に近づくと、雨が降ってきた。
ここには、時間もない。時は自らの尺度か、この街の尺度で、ゆるやかにしかし瞬く間に過ぎて行く。
ポツポツ、と、彼女の白い服に斑点の染みを付け出したそれは、次第にザーザーという音を立てて振り出した。
「……風よ、傘をつくって」
風が彼女の周りを吹きぬけると、頭上には半球状の白く透けたものが浮かび上がっていた。雨はもう当たらない。けれど既に濡らした水滴で、黒く長い髪からは雨粒が滴り落ちていた。
風はまだぐるぐると彼女の横を通りぬけていたが、しばらくすると、彼女から落ちる水はなくなっていた。
「ありがとう……」
彼女は、礼を言った。
静音の視界に広がる景色は、雨のせいで薄くぼんやりとしてしまった。けれど、相変わらず街は変わり続ける。
様々な者の目から見た、都市の形に。
時折、やや冷たい風が彼女の掌を吹きぬける。彼女はその度に拳を握り、紙縒りを掴む。そして、そこに書かれたものを読んだ。
常に変化して行く街。いろいろなものを呼び寄せ、飲み込み惑わせている。
彼らが欠けているものを、見つけるまで捉え続ける。
「私も、そのうちの一人なのかしら……?」
傍観者という、立場ではあるけれど。
彼女は街を見続けていた。眺め、そして待ち続けていた。
「神居って名前だったかしら。今度は……見つかるといいわ」
彼になら見つけられるかもしれない。そんな予感を感じていた。
私に欠けているもの、私が待ち続けているもの……。
「私って一体、誰なのかしらね……」
静音という名の女性は、少し、自嘲気味に微笑んでいた。
■――A.D. 20XX トーキョー某所、倉庫街■
ガチャッ、とドアが勢い良く開く音がする。
「ただいま! 神居さん。取りに行ってきたっす」
「おかえりなさい、勝也君」
まだ時計は、朝の六時十五分を差している。勝也は、手に持った大き目の封筒を神居に渡すと、ロッカーを開けて黒い制服に着替えだした。
神居は封筒の中身を確認すると、ひとまずPCの横に置き、朝食の準備を再開した。
「朝ごはん、食べてきますか?」
神居は、食卓に置かれたパンをトースターに入れながら言った。
「えっ、いいんすか?」
「だって勝也君、まだ食べていないでしょう。学校へ行くのに、それではおなかすきませんか?」
「あ、はい! ありがたいっす。……クミねぇ、朝弱くって、起きて作ってくれたことってないんすよ〜。自分で作ってもいいんすけど、時間なくって」
勝也の学校は、最寄の駅から電車で二十分ほどの所にある。家は歩いて十五分ほどの所だが、ローラーブレードを使っているので、大抵五分くらいで着く。
バターを塗ったパンで簡単な朝食を済ませた後、神居は食器を流しに持っていき片付けた。
それから、封筒を手に取り、中から資料を引き出した。
「……失踪は、一ヶ月と一ヶ月半前ですか。随分時間が経っていますね」
依頼の内容は二つだ。
一つ目のターゲットは、小学五年生の梓という女子。失踪する以前、暁月市に強い興味を持っていたようで、それを友人たちに度々話して聞かせていた。失踪したのは一ヵ月半ほど前。
友人と会話をしている時で、
『そういえばこの辺りで、暁月市に繋がったっていう話も聞いたんだ』
と彼女が言った数秒後に友人の前から消失。電車に乗って帰宅している途中だったらしい。
そのことを警察にも話したが、取り合ってもらえず、本人の父親が十三日前にGINに依頼。しかしサーチャーまで失踪したので、次のサーチャーも派遣。それが五日前のことだが、依然音信不通であるらしい。
二つ目のターゲットは、とある高校の超常現象同好会のメンバー三人。彼らは暁月市について調べていて、現地調査の途中、約一ヵ月前に失踪したらしい。一週間ほど前に、知人のつてでGINに依頼。ここで送り込まれたサーチャーもまた、行方不明ということだ。
「それじゃ、行ってくるっす。何か分かることがないか、調べてみますよ」
「学校へ行っている間は、学業に専念しなければ駄目ですよ。勝也君」
「あはははは……大丈夫っす」
勝也は苦笑いをすると、リストバンドのスイッチを操作し、勢いをつけローラーブレードで外へ飛び出していった。
神居は彼が出て行ったのを確認すると、再び資料を読み返した。
「……それにしても」
ビルは、最近行方不明者が増えていると言っていた。GINには依頼が出ていなくとも、他にも多くの人間があの暁月市の中に消えているのだろうか。
「そもそも、どうしてこの人たちまで行方不明なんでしょうねぇ」
探しに行って連絡の取れなくなったサーチャーの名前を、神居は見る。記憶では、能力は神居に多少劣るといえ、かなり敏腕で腕の立つサーチャーであるはずだったのだ。
軽い落胆と同時に、暁月市に対する疑問が込み上げてくる。
「暁月市の何が、そんなに人を惹きつけてしまうのでしょうか……」
目を上げて窓の外を見る。電線からはすずめが飛び立ち、朝の風景がそこに浮かび上がる。
建物の間から、高層ビル群が遠くに見えた。太陽は右側から光を強く発し、快晴の青空が上一面に広がっていた。
■――A.D. 20XX トーキョー某所、大学■
「あっれぇ、瑞穂。久しぶりじゃん! 今までどうしてたんだよ」
「あはは、ちょっとね〜」
久しぶりに顔を出した学校で、瑞穂は同級生の友達に声をかけられる。
いくら最近暇になっていたとはいえ、二週間以上ここへ来なかったのは不思議に思われたようだ。
「講義、出てなくって平気なのか?」
「うーん、もともとそんなに多くないしねっ。それに、卒論もほとんど終わっちゃったから、あんまりやることないのよ」
「うわっ、うらやましいぜ! 俺、まだ結構残ってるんだよなぁ……ホント、どうしよっていうくらい。だけど瑞穂ー、日数は気を付けろよ?」
「だいじょぶよお。それは!」
笑いながら、すれ違って別の方向へ行こうとしている友人に別れを告げ、瑞穂は図書館へ向かった。
図書館はかなり昔からある建物だ。古いもの新しいものまでたくさんの本揃っていたので、いつでも特にテーブルの辺りは多くの人が居た。しかし瑞穂が目的の本を探しに奥へ入っていくと、そちらは閑散としているようだった。
「……この辺り、かなぁ」
小さく呟くと立ち止まり、瑞穂は本棚の前で、上から順に題名を目で追っていった。これかな、と思う本が目に留まると手を伸ばして取り出し、違うと思えば元の場所に戻していく。
何冊かの本が見つかると、テーブルへ行って本を積み上げ、持って来た白いノートを開いた。
そして、気になった言葉や文章を書き出していく。
『都市伝説、アーバンレジェンド。いかにもありそうだと思える噂話。奇妙なものから怪談話や笑える話など、ありそうにもないものから、本当にあったことまで様々なものがある。実際に起こった出来事として口頭で伝えられていく。内容は、伝わっていくうちにかなり変化していくようで、単純化されたり一部が強調されたり、個々の主観が入ってしまったりする。噂が広がりやすい所は、学校や職場など……』
本を読みふけったりノートに文字を書いたりしているうちに、いつの間にやら時間が経ってしまったようで、顔をあげると時計はもうすぐお昼という時刻を指していた。
瑞穂は立ち上がると本を元の場所へ戻しに行き、ノートを鞄に仕舞って図書館を出た。
外は太陽の光がさんさんと差していて暑く、眩しいので瑞穂は目の上の辺りに手を持って行き影を作る。
「あぁー、瑞穂!」
その時、同じサークルに入っている友達がかけてきた。午前中の講義が終わったようだ。校舎からはぞろぞろと人が出てきていて、その多くは食堂へ向かっている。
「ねえねえ、この前言ってた暁月市のアムネジアっていう映画館、結局行ってみた? ってかさぁ、実際にあるとこじゃないんだもん。行けないよねぇ? それともまさか、本当に行けた? どうだったのよー」
彼女には二週間前――瑞穂にとっては一昨日ぐらいだが――、暁月市の映画館に行ってみたいという話をした。あの時は冗談半分に、それでも少しだけ本気で、アムネジアのことを考えて想像を膨らませていた。
彼女は熱狂的な映画ファンである瑞穂が、遂にそこまで行ったか、と思いながら、苦笑しつつ聞いてくれていたのである。
「あぁ、それ、覚えてたのぉ?」
本当のことを答えるべきか、とちょっとだけ悩みながら、瑞穂は答えを茶化すように返す。
「ん、瑞穂。もしかして冗談だった? あれ」
「えっとー、どうだろうねぇ」
「もうっ、真面目に答えてよー。でも、……てことはそっか。やっぱりアムネジアなんてなかったんだね?」
「あったわよ」
答えをはぐらかすつもりだったのに、反射的に言ってしまった。
映画館アムネジアは、確かに昨日、見終わると閉館し、康三郎監督と一緒に天に流れて消えてしまった。今はもう、暁月市の中にはないかもしれない。けれど、最初からなかったということにするのは、嫌だと思えたのだ。
「あったぁ? じゃあ何、瑞穂。もしかしてアムネジアに行ったの?」
「うん。すごく面白い映画を見せて貰えたわ。……昨日で閉館しちゃったけど」
「じゃ、じゃあ! 暁月市に入って出て来れたってこと?」
驚いて状況を聞きだそうとする友人に、瑞穂は少しかしこまった様子で喋りだす。
「私が暁月市に行った場所は、シブヤのスクランブル交差点。前にそこから暁月市に行ったっていう人がいたから、同じ所からなら行けるかなって思って。そこへ行くとね、街が二重に重なったみたいに見えたの。ちょっとした違和感を感じた。そこで、足を前に出してまっすぐ歩き出すの。そうするとね、周りの景色は同じなんだけど、違う東京に辿り着く。その東京をぐるぐる廻ってると、だんだん実際のトーキョーとは違うってことが分かってくるわ。それからしばらく探しているうちに、遂に映画館アムネジアを見つけたってわけ!」
面白おかしく聞こえるよう、声のトーンを低く落とし、だんだん盛り上がっていくように、瑞穂は説明をする。
今まで自分が知って友人たちに伝えた、様々な噂話と同じように。でも、本当に自分で体験したことだから、リアリティはこれまでの中で一番強い。
友達は、リアクションを入れながら話を聞いていた。聞き終えると、映画の内容も尋ねてくる。瑞穂は、神居や静音と会ったことは伏せて、少し脚色も入れながら話を広げていく。自らの経験で、暁月市での体験談を語るのだ。もともと噂好きだった彼女にしてみれば、こんな時間ほど楽しいことはない。
「……へえー、そっかあ。でも惜しかったな、閉館しちゃったなんてさぁ。あたしも行ってみたかったよ! 瑞穂も、誘ってくれれば良かったのに」
「そうねぇ。でも、今度探して行ってみるといいわよ。街が二重に見えたら、これだ! って思って、躊躇しないで歩き出すの。そうすれば行き着くことができるから。ねっ?」
「ふうん。試してみよっかなぁ」
話しているうちに、二人は食堂に辿り着く。しかしあまりにも混んでいたので、友達は、今日は午前だけだから外で食べるよ、と言って、その場で別れることになった。
しばらく並んだ後、定食を頼んで受け取ると、レジでお金を払い席に着く。食べながら、瑞穂は考え込んでいた。
「噂話、かぁ……。暁月市って都市伝説でもあるから、噂っていえば噂よねぇ……」
先程、図書館でメモした内容を思い出す。それからついさっきまで友達に暁月市について力説していたのを思い出し、小さく苦笑いをした。
私も、その噂話としての暁月市を広げる一員になってしまっているのかもしれない。
けれど、暁月市はただの噂話なんかじゃない。偽物や作り物ではないのだ。
実際に、この目で見てきた――。
しかし、言ったって本当に信じて貰えるだろうか? 作り話として話半分に聞いて、ひょっとしたらとは思えてもそれはただの伝わってきた噂話で、己の実生活とは何も関係のないことなのである。
クミちゃんは信じたのかもしれない。神居さんも、探しに来たというのだから、暁月市の存在を信じていたのだろう。その弟子の勝也君も。
だけれど、誰が信じているかいないかはさて置き、事実は、暁月市が存在するということなのである。
どんなに誇張されても、不可思議に面白おかしく伝えられても、それは本当に実在するものが元になっているのだ。
図書館で本を読めば読むほど、都市伝説は作り話、噂話で、実在はしない人を踊らせているものであるというふうにしか書かれていなかった。都市伝説は、都会で発せられた根も葉もない噂話。暁月市にしたって、奇妙な体験談であればあるほど、それは現実という世界から遠ざけられ切り離されていく。
実際に見てきた瑞穂であれば、それは信じられる。でも、そうでなければ、どうだろうか。物語の中の異世界としか捉えられなくともおかしくはない。
昼食を食べ終えると、お茶を飲んで立ち上がった。
考えてもよく分からない。今まで噂話を真偽は別としてたくさん仕入れ広めてきた自分だけれど、本当にあった都市伝説への対処の仕方など、思いつくはずがなかった。本当にあったとはいえ、暁月市は今まで自分が知ってきた現実社会の常識とはあまりにもかけ離れている。
そんな答えの出ない思考を繰り返しながら、瑞穂は午後からは受けようと思っていた講義の場所へ足を向けていた。
穏やかな昼下がり、瑞穂は一人、額に手を当てて考え込みながら、ゆっくりと通路を歩いていた。
■――A.D. 20XX トーキョー某所、倉庫街■
神居は、封筒に入っていたビニール袋を取り出した。中にあった媒介から、ターゲットの余韻を自分のイマージュに焼付ける。
眩い光の糸が、神居の周りを覆った。少しすると、その光は見えなくなった。
神居は電車の路線図を取り出すと、方角と位置を確認した。
「さて、そろそろ行きましょうか」
神居は近くの駅まで歩いていくと、通勤通学で人がごった返している朝の電車に乗り込んだ。何とか中に入ってはみたものの、普段乗りなれないものなので、とても窮屈に感じられ、ここまで身動きも取れない状態で本当に大丈夫なのだろうか、と漠然と不安を感じた。
大勢の人込みは、駅に着くごとに移り変わり大きく動いていく。だんだんと余韻を感じる場所へ近づいていくに連れ、神居は辺りに意識を張りめぐらせた。
とある場所へ来ると、景色が揺らぐような様子が見えた。
神居は、身動きを取ったわけではなかった。しかしそこを通り過ぎた瞬間、電車に乗っていることと外の風景は変わらないものの、大きく変化したものがあった。電車に乗っているのが、自分一人だけになったのだ。
■――A.D. 20XX Unknown■
周りの風景は、今まで居たトーキョーとなんら変わらない場所だった。
だがこの東京は、やはり強い違和感を感じる。しかしこれは、違和感というより……。
「人が……いませんね」
電車で消えたという梓の余韻は、まっすぐと先まで続いたままだった。駅に着くとドアが開いた。余韻はその先に伸びていたので、そこで下車する。
駅の外に出ると、多くの人が行き交う普通の街の風景が広がっていた。けれど余韻の先を見れば、その道に沿ってだけ、人がぽっかりと穴が空けたようにいなくなっている。
「ここで彼女を探してもいいですが……それよりまずは、この街を廻りましょうか」
余韻だけは見失わないように。
神居は踵を返すと、余韻の方向とは別の方角へ歩き出した。まだ、朝なのである。ここでの正確な時間は分からなかったが、尺度を飲み込まれなければまだしばらくは問題がないはずである。
雲のない青空には、白く薄い半分の月が出ていた。
暁月市内の東京らしき場所を廻るうちに、奇妙なことに気がついた。歩いていけばいくほど、景色は現実のトーキョーとは異なり、別の独特な東京となっていくのだ。
曲がり角があるはずの所でない、ビルが立っているはずだが消えている。さっきまで歩いてきた道を振り返ってみれば先には壁があり、戻れるはずの道は遮断されている。
しかし人の流れは絶え間なくあり、その道を歩いている人々は、現実にいる人間と変わりがないように見えた。違和感は、感じられる。が、彼らが生きていないという感じはしない。
暁月市内を探索をしている途中、天候が変わり、不意に雨が降ってきた。視界が少し悪くなる。
車は窓の所でワイパーを規則的に動かすようになり、多くの人々は傘を差すようになった。
神居は傘を持っていなかったので、とりあえず近くの店先に入って雨宿りをした。その近くでコンビニエンスストアを見つけたので、そこまで早足でかけていき、中に入るとビニールの傘を買った。
「五百円になります。ありがとうございましたー」
店員の声も、傘の感覚もとてもリアルである。試しに神居は、そこの店員に尋ねてみる。
「ここは、どこですか?」
「……え?」
「あの、ですから……」
やはり唐突に、そのままここはどこなのかと尋ねてみるのは、変であったかもしれないと思い、神居は適当な言い訳の言葉が何かないか探そうとする。
すると店員は、おずおずとだが尋ね返してきた。
「……ええと、道に迷われたんですか?」
「まあ……はい」
神居が頷くと、店員は丁寧に説明をしてくれた。
「ここは、東京都新宿区です。あの、東京の方ではないんですよね? 違っていたらごめんなさい。この近くにある交番までの地図を書きますので、そこへ行って目的地までの道をお尋ね下さい」
薄く罫線の入った小さなメモ用紙に、若い店員は綺麗な線で大まかな地図を書き、神居に渡してきた。
「ありがとうございます」
神居が礼を言うと、店員は、お役に立てたのなら幸いです、という言葉を笑顔で返してきた。
コンビニエンスストアを出ると、通りを過ぎる人の数が疎らになっていた。傘を差して少し歩くと、完全に人の流れが絶たれた。
誰もいない街を、神居はぐるりと辺りを見回し、先程店員に貰った地図を開き、そこに書かれている交番へ歩いていこうとした。けれども一応歩いてはみたものの、書かれている通りの道はどこにも見当たらず、おかしいと思いながら傘を買った店を振り返ってみれば、そこにはもうコンビニエンスストアはなくなっていた。
買ったビニール傘だけは手に残っていて、大粒の雨をバラバラと弾き返している。頭上を見れば、透明なビニールの表側では、雨粒は次々に滑り落ちていった。
水溜りを避けながら歩いていく。
と、その時、ふわりと目の前に誰かが降り立った。静音だった。彼女は傘を差してはいなかったが、雨に濡れているようには見えなかった。
「こんにちは、神居」
「こんにちは、静音」
地面に降り立った静音は、神居の手で持たれている傘を見ると目を見開き、奇妙であるといったような表情をする。
「律儀な人ね……あなたも。それ、買ったんでしょ?」
「ええ。傘を持っていませんでしたからね、仕方なく」
神居は答えると、彼女にも尋ねてみる。
「そこの店員さんに言われましたよ。ここは、東京と言うそうですね?」
「いいえ、この都市の名前は暁月市というわ。あなたには、東京という街に見えているかもしれないけれど」
静音は首を振る。神居はそれを聞くと、少し嬉しそうに微笑んだ。静音は神居の方を、不思議そうに見つめる。
「……そうですか。僕にも、ここがトーキョーには見えません」
「何を笑っているの? 神居」
「暁月市には、虚構が多いですね。妙な作り物です」
「あなたには、そう思えるのね」
「静音も知っているでしょう? 真実は、数多の虚構の中から見つけられるんです」
神居は、空から落ちてくる大粒の雨に目を移した。それから雨を降らす、上空の黒い雲を眺める。
「あれも……虚構ですか」
「さあ、どうかしら」
「静音。あなたは、風の噂を読むことが出来るんですよね? 今日のトーキョーの天気は、何です?」
聞くと、その途端、静音の周りに小さく風が渦巻き、彼女の掌には紙縒りが握られていた。彼女は紙を白い指で開くと、答えを口にした。
「快晴よ」
「そうですか。やはり……」
「でも、それが何だっていうの?」
何かに納得した様子の神居に、静音は尋ねる。
「静音は、この雨にどんな意味があると思いますか?」
静音は首をかしげた。
「……意味なんて、あるのかしら」
「僕がいつもいる世界、トーキョーにはないと思いますが、少なくとも……ここには、何かあるように思われるんです」
その時、街頭の明かりが、チカチカッと点滅して灯った。うすぼんやりとした街路は、淡い光に灯される。
ビニール傘は、ちょっとだけ眩しく光を反射していた。空は、暗い。
「今は、もう夜ですか?」
「いいえ。あなたの時間はこの世界とは関係がないようだから、まだ昼頃だと思うわ」
「あなたは、何でも知っていますね」
「……そうでもないわ」
雨が降る東京の姿をした街で、白い服を着た大人びた少女と、透明なビニール傘を差した黒い服の青年が対峙していた。音を立てて降る大粒の雨で、周りの視界は薄暗くなっている。地面には、大きな浅い水溜りが出来ていた。
にぎわっているはずの街路に、他に人はいなかった。たった二人。奇妙な容貌をした、この街にいるのには違和感がある人間が向かい合っている。
暁月市の時計はあっという間に進んでいくようで、いつの間にか空は黒くなり、夜が更けていくようにも見えた。
■――A.D. 20XX トーキョー某所、文教地区■
ローラーブレードを滑らせながら昇降口に滑り込む。勝也は階段を駆け上がって教室に着くと、机とロッカーに荷物を置いて、調査を開始した。
インターネットで大方の情報を得て紙に印刷することは、昨日既に終わらせていた。だから今日は、学校の生徒達に地道に聞き込み調査をしようとしていたのである。
都市伝説といえば、口頭で噂を広げていくものだ。であるから、学校内で聞きまわっているうちに何か情報が得られるかもしれないと目論んだのだ。
「あのさ、暁月市って知ってる?」
「暁月市〜? どっかで聞いたことあるような……」
「それ、神隠しみたいなヤツだろ。何でんなこと聞くんだ?」
「姉貴の友達が行ってみたいとか騒いでるらしくって、姉貴にしつこく問い詰められたんだよ……でも俺、全然詳しいこと知らないからさぁ。何か知ってることあったら、教えてくんない?」
ちなみにこれは嘘ではない。二週間ちょっと前の事実である。しかし今は、その言い訳を都合よく利用しているのである。
朝の教室はだんだんにぎわいを見せていく。そこで共通の話題である噂話をしていれば、教室へやってきた人間は興味を持ち、どんどん会話に参加していった。
最終的に、勝也はクラスメイトほとんどからの彼らが知っている情報を得ることが出来た。
「…………街中で忽然と消える、暁月市について調べ過ぎると消える、行ったら〇・一パーセント弱の割合でしか帰って来れない、実はトーキョーで毎日百人くらいの人が飲み込まれてる、か。なるほどー」
勝也はメモを取りながら、相槌を打ちつつ話を聞いていた。暁月市に対する皆が知っている噂上での情報はさまざまで、中には話の食い違いや信憑性のなさそうなものまであったが、とりあえずほとんどの話を箇条書きに書き並べていく。
暁月市の内部の印象については、あまり詳しい話は聞けず、あってもバラバラで、これは昨日インターネットで見たものと同じような様子だった。
噂より実際に行ってみたやつの話を聞きたいなぁ、と思っていると、勝也の傍に一人の女子生徒がやってきて、おそるおそるといった感じで小さな声で話しかけてきた。
「……勝也君、暁月市のこと調べてるんだよね?」
「うん、そうだけど」
「じゃ、ちょっと話聞いて貰いたいんだけど、いい……?」
勝也は頷いた。その時、先生が入ってきてホームルームが始まってしまったので、これが終わった後、と彼女は言い残して席に着いていった。
ホームルームが終わると、彼女に廊下に呼び出された。
「あのね……私の弟、一年だけど、この前まで行方不明になってたのって知ってる?」
「あー、そういえば聞いたことあるようなないような……」
「……他の人には言わないでね? 信じて貰えないし、からかわれるだけだから。えっと、弟ね、暁月市に行ってたみたいなの」
「ええぇっ?」
大声を上げそうになって、慌てて片手で口を塞いだ。彼女は、だから弟に会って欲しいの、と言い、昼休みに会う約束と取り付けてきた。勝也は思ってもみない事態にすぐさま承諾し、教室に戻ると時間が過ぎていくのを待った。
時計が十二時をまわる。四時間目の授業が終わって昼休みになり、昼食を食べる前に席を立って彼女と約束していた場所へと向かった。
校舎の裏側の、あまり人が通らない所で待つ。しばらくすると、彼女は一人の男子生徒を連れてやってきた。
彼の目はどことなくぼーっとしていて、こちらに気付いて顔をあげたものの、どこを見ているのか分からないような焦点が定まらない様子をしていた。体の力も抜けているようで、だらんと無造作に腕を下ろし、姉である勝也のクラスメイトに連れられるままにここへ来たというように見えた。
「はじめまして。俺、勝也っていうんだけど……君、暁月市に行ってきたって本当?」
「……ええ、行きました」
ゆっくりとした口調ではあったが、彼は頷きながらそう答えた。しかしどこか落ち着かない様子である。
「それって……いつ?」
「ずうっと前、です」
曖昧な答え方をする彼に、勝也は怪訝そうな顔をした。
「……二月半前よ。二ヶ月、そこにいたみたい」
姉の方が、そう付け加える。勝也は他にも質問する。
「えーと、どんな所だった?」
「……素敵な、とても素敵な所でした。でも……」
「でも?」
「違う街が続くんです。僕が今まで住んでいた街。トーキョーの街。歩いていればどこへでも行けました。でも、分からない……」
彼は、目の前にその光景を思い描いているかのように嬉しそうに説明しだしたかと思えば、急に悲しそうになる。
「自分の家に帰れない。どんなに歩いても、帰ることができませんでした。その街を歩いていたのは、たった一日だけだったんです。だけど、すごく長い一日でした……」
話し終えると彼は、ふぅと息を付いた。
勝也は、聞きたかった他の重要なことを続けて質問する。
「君は、どうやって行ったの? その、暁月市に」
「行く……? 俺は、暁月市という街を、知らなかったんです。歩いていたら、急に目眩がして……どこへでも行くことのできる道に出たんです。最初は、小さい頃物語の中で読んだ、ファンタジーに出てきたような街の道路でした。そこが、暁月市っていう名前かどうかは……」
彼は更に落ち着かなくなった様子で、きょろきょろと辺りを見回しだした。すると、姉が口を挟んだ。
「私が調べたの。だって、二ヶ月も行方不明だったのに、たった一日道に迷ってただけなんて言うでしょ? だから、おかしいと思って。……ネットの事例に似たようなのがあったから、そうなのかなってね。確信なんてない、予想よ? でも、他に説明が付かないもの」
彼女は、予測だという割には、弟は暁月市に行ったのだと堂々と言い切る。
勝也はメモ帳に彼の話を書き取りながらふんふんと頷き、最後に一番聞きたかったことを尋ねる。
「それで、どうやって帰ってきたんだい?」
「……帰る? 帰る……どうやって? ええっと……それは…………」
口調が挙動不審になると、彼は両腕で頭を抑えてうずくまってしまった。彼は頭を抱えながら、低くうなり声を上げていた。勝也は驚いて彼に近づくと、大丈夫かと声をかける。
と、彼の姉に制された。
「ごめんね、勝也君。弟、この話してると、だんだん具合が悪くなっちゃうみたいなのよ」
彼女は勝也の方へ駆け寄ると、勝也をひっぱって彼から少し遠ざけた所で小声で話をした。
「……あのね、暁月市って、正直言って私もどんな所なのかよく分からない。それでも、科学じゃ説明はできないけれど、私は多分、本当にあるんだと思ってる。だけど……ほら、勝也君のお姉さんの友達、だっけ? 暁月市に行こうとしてるなら、止めた方が良いよ。弟ね、帰って来てから、まあ二ヶ月も行方不明だったんだから当然かもしれないけど……様子がおかしくなっちゃったの。さっきみたいにちゃんと喋れることもあるんだけど、ほとんどね、生気が抜けたみたいにぼーっとしちゃってるんだ」
勝也が彼女の弟に目を移すと、もう頭を抱えるのはやめていたが、手をだらんとさせたまま地面に座り込んで呆然としていた。首が、横に少し傾いている。
「だからね、興味本位でもそうじゃなくっても、行くのは絶対に止めた方がいいって、そう忠告して。行って帰って来るのは、すごく危険だと思うの。ね? 勝也君」
彼女はそう念を押すと、弟に駆け寄って彼を立ち上がらせ、労わるように話しかけながらゆっくりとその場を去っていった。
取り残された勝也は、ペン先の動きが止まったままになっているメモ帳を見ると、続きを走り書きした後、それをポケットに突っ込んだ。一緒に両手もポケットに入れると、小さく息を吐いた。
「行くなっていったってさぁ……」
多分今頃、神居さんは向こうへいるだろうし、それに現在自分は、暁月市とそこにいる少女についてを調べなければならないのだ。これは、ポーターとしての仕事なのである。
「それに、瑞穂さんはちゃんと帰って来たし……」
そりゃあ、無事だったのは、神居さんが一緒だったからなのかもしれないけど。
勝也はしばし、雲のない空と学校の外に見える風景を見つめていた。それからゆっくりと足を昇降口の方へ向けると、まだぶつぶつと何かを呟きながら歩き出した。
■――A.D. 20XX トーキョー某所、交番■
「それで、久扇子ちゃん。今は何を調べているの?」
「えっ?」
再び、行方不明者についての資料を見ていた久扇子に、先輩は問いかける。
確かに、久扇子はもう友人は見つかったと言ったのだから、まだ調べているというのは不自然だ。
「あの……実は、今度は私の友人の知り合いが、行方不明になってしまったみたいで」
「そうなの、何だか大変ねぇ」
困ったような表情をして見せた久扇子に、先輩は同情するような目を向ける。
彼女は、久扇子が見ていた行方不明になった人たちの資料を眺めた。それから、顔を上げて尋ねてきた。
「何ていう名前?」
「静音です。静かな音、と書いて……」
言いながら指で宙に字を描いてみせると、先輩は他にも聞いてきた。
「静音ねぇ……でも、この近くに住んでるの? 年齢は?」
「いえ、詳しいことは、私もよく知らないんですけど……ただ、友人から、何か分かることがあったら教えて欲しいって言われまして」
「あらあら、調べるんなら、もっとちゃんと聞いてこなきゃダメよ。久扇子ちゃん、名前だけで調べようって言ったって、住所も年齢も分からないんじゃ……そもそも、このトーキョーには、年間行方不明者なんて何万人といるのよ? その中から探そうって言うんでしょう?」
そう言われ、久扇子は言葉に詰まった。
実際、神居には静音という女性だと言われただけで、外見特徴も何も聞いてきてはいなかったのだ。年齢は……瑞穂の話によれば、彼女は今生きている人間なのかどうかも分からないだろうが、何一つ情報もなし、ここ数年のトーキョー都内の行方不明者に彼女が含まれてるか調べるなど無謀である。
そういえば、と思い出す。神居に頼まれていたのは、暁月市についてを調べるということであって、静音という女性についてではなかったのだ。
それなら、暁月市に迷い込んだと思われる、理由もなしに不自然な消え方をしているしばらく帰ってこない他の行方不明者について探ることはできないだろうか?
「……そうですね。その件については、もう一度友人に詳しいことを聞いてきます。ところで先輩、瑞穂ちゃんの時がそうでしたけど、ちょっと奇妙な失踪の仕方をしている人って、どのくらいいるか分かりますか?」
「奇妙って……具体的には、どんなふうに?」
「たとえば、別に家出をしたとか何かの事件があったからとか……そういう、失踪する事情が全くないのに、突然、普通の暮らしをしていていつも通りの生活をしていた人間が、失踪してしばらく帰って来ていない、というような例です」
「ええと、それはどうかしらねぇ……多いんじゃないの? 失踪する原因なんて、他人に分かるようなものじゃなかったりするでしょう?」
確かにそうだ、とは思う。久扇子は、条件をもっと絞ってみることにした。
「……それなら、失踪する理由も当ても何もないような……そう、普通の生活をしている子供とかが消えてしまったというような事例って、あります?」
■――A.D. 20XX Unknown■
雨の降る夜の街で二人はしばらくの間向かい合っていたが、先に踵を返したのは、神居の方だった。
「失礼。そろそろ僕も、ここへ来た最初の目的に戻らなければいけませんから」
「目的……?」
「人を探しているんです」
夜に、傘を差して歩きながら探しにいくというのは、視界の状態としてはかなり悪いものだったが、余韻を追っていくのにそれは関係がなかった。意識を集中させ、少し遠くなってしまった余韻の場所を神居は探し当てる。
「神居、付いて行ってもいいかしら? 今日も」
「……構いません」
神居は微かに頷くと、余韻に向かってずんずんと歩き出していった。静音はふわりと浮かび上がると、彼の後を静かに追う。
もと来た道を戻るような感じだったので、十数分ほど歩くと、辺りに人が多く行き交う大通りに出た。見るからに、普通の都会の雑踏。直感的に感じる違和感さえなければ、トーキョーに戻ってきたようにも感じてしまうだろう。
余韻に向かって歩けば歩くほど、人通りは絶えて行った。やがて、細く暗い通りに入り、その奥にあった建物の壁に、銅色の錆びたドアを見つけた。余韻はこの中に続いていたので、神居はノブに手をかけて中に入る。
開くと、大きく軋む音がした。
「……誰も居ませんね」
そこの建物の一階内部は、狭い飲食店跡というような様子だった。木の床にはたくさんの傷がついていて、蒼い石の壁にはヒビが入り、電球は欠けていて、部屋の至るところに蜘蛛の巣が張っていた。テーブルクロスや椅子には、埃が厚く積もっている。
「居ないというより、人が住んでいる所には見えないわね」
「上の階でしょうか……」
神居はそう言いながら、テーブルとテーブルの間を通り抜けて、見つけた階段を上っていった。
二階のドアの前を通り過ぎたが、神居はそちらを見向きもせず、もっと上へと階段に足を掛ける。静音は尋ねた。
「ここは見ていかないの?」
「ええ、いませんからね。もっと上です」
四階も五階も通り過ぎ、ぐるぐると回っている階段を上り続けていると、だんだんと息が上がってくる。神居は一時足を止めて、上の方を見上げた。見えたのはその場の天井だけで、どのくらいまで階段が続いているのかは見えなかった。
「彼女は、恐らく……最上階ですね」
「……意外と体力がないのね、あなた」
息も切れ切れな神居に、静音は半ば呆れたような心配そうな声をかける。
「……今日は、ずっと歩き通しでしたからね。それに……」
「それに?」
「……飲み込まれたくは、ありませんから」
よく彼を見てみれば、ずっと気を張ったまま集中しているようにも見えた。
「大丈夫よ、あなたなら。最上階へは、もうすぐ辿りつくと思うわ」
静音は確信に近い希望を込めた声で、そう言った。
何階まで来たのだろうか。あるフロアを通る時、不意にドアが開いて、お婆さんが顔を出した。神居はそちらを振り返ると、驚いた素振りも見せずに、こんにちは、と挨拶をした。
「おんやぁ? お前さんは、どちらさまだい?」
「神居と言います。……あなたは?」
「わしは、絹江っていう名前の婆さんさ。で、ここの宿屋に何の用だい」
「宿屋? あの、僕と静音は……」
神居が言いかけると、宿屋の主人であるらしい絹江婆さんは、目を細めて静音の方を見た後、怪訝そうな顔付きをすると神居と静音を見比べてきた。
「静音ってあの穣ちゃんのことかい。そんれにしてもお前さんたち、黒い服と白い服とは、縁起が悪いんねぇ。何かあったんかい」
「……いいえ」
「だんが、一つわしにも分かることがあるんだ。お前さんたち、幽霊じゃないのかい? ここの世界の人間には、到底見えやしないわい」
婆さんがそう言って、怯える身体を奮い立たせるように豪快に笑うのを聞いて、神居は静音と顔を見合わせた。
確かにこの婆さんの言う通り、少なくとも神居の方は、暁月市に住む人間ではない。けれど、幽霊ではない。しかし彼女のように暁月市に住んでいる者からしてみれば、外から来た神居のような人間の方が不自然な者に見えてしまうのかもしれない。
「幽霊ではありませんよ。ところで、絹江お婆さん。僕のように外からやってきた人間が、今この宿屋に来てはいませんか?」
宿屋の主人は神居をじろじろと見上げると、答えを言おうか言うまいか迷っているようだった。
あとがき
リレー小説への参加は初めてなので、どうすれば前の話とあまり大きな違いを作らずに書けるのかということが難しかったです。
でも最終的には、楽しんで書けたので良かったと思います。
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◇執筆者HP本編リンク◇
■■第1話
■■第2話
■■第3話(HP閉鎖)
■■第4話
■■第5話
■■第6話(HP閉鎖)
■■第7話
前/
後