■ RRN1 時 の 守 人 ■
■最終章 最後の戦い■ ■■担当:もも■■
心に宿るの精霊
修太の言葉にシーラは涙を流した。途切れることのない大粒の涙だった。その涙は、頬をつたい、彼女の手のひらに落ちた。そして、一粒の結晶となって現れた。「お待ちなさい、椿山修太。あなたにも精霊を授けましょう。」
「精霊?それならばさっき、5人で戦ったとき、真理の精霊トロイヤを身に着けたと、このPCが教えてくれたが・・・。」
「ええ、確かに。しかしそれはあなた一人ではなく、5人に対しての精霊です。精霊なしでは、ラクシオンとディストルとは戦えません。さぁ、受け取りなさい。これを。そして飲み込むのです。あなたの心そのものに」
そうやって、自分の涙から生まれた一粒の結晶をシーラは差し出した。
「あなたにもっとも相応しい精霊、愛を司る『マザー』を」
「『マザー』・・・・母親という名の精霊か・・・。」
修太の胸に堪え切れない思いが込み上げてくる。自分が付けることの出来た精霊『マザー』。そして、これから戦わなければいけない相手『母親』。シーラから受け取った一粒の結晶を、修太は飲み込んだ。一瞬、体が光輝き、そして静かにその光は修太の体の奥深くへと戻っていった。
「ありがとう」
そう言って、修太はラクシオンそして、ディストルへと変化しつつある『母』のいる場所「時の狭間」へと向かっていった。「時の狭間」の場所は体が覚えている。もう、PCに頼らず歩いて行ける。その前にまず弟たちに逢わなければ。愛する弟たちに。どんな理由を付けて話せばいいのだろう。修太は考えていた。その時だ後ろから功太の声がした。
「俺も行くよ。修太兄だけカッコイイとこ見せようったってそうはいかないよ」
「話を聞いていたのか・・・。」
「うん。それより・・・じいちゃんがほんとに死んじゃったよ。父さんと戦って。」
「なんてことだ・・・。父さんは実の父親をその手で殺したというのか?」
「でも・・・『これで雅也は正気に戻った』って死に際にじいちゃんが言ってた」
「で、父さんはどこへ?」
「母さんを助けに」
「そうか・・・。」
「皆にはじいちゃんが自分の命と引き替えに父さんを正気に戻してくれたからこの世界のことは解決したって言っておいた。今、安全なところで休んでいる。あいつ達にはトロイヤが着いてるから安心だ。俺と兄ちゃんはシーラにあいさつに行ってくるってことだけになってるよ」
口ぶりはいつものように軽いが功太の目は真剣だ。修太にはそれが良く分かった。
「いいのか、功太。死ぬかもしれないんだぞ」
「ああ、分かってるよ。大丈夫俺にはニュイやホワイトが付いているから。こいつらのこと、それから自分のこと信じているから」
ニュイとホワイトは誇らしげに功太を見上げる。今まで功太の肩や頭の上に乗っていた二人だったが、今は自分の足で歩いていた。いつ間にかマスターである功太を本当に認め始めているようだった。
「マスターには私達がついてるから大丈夫よ、お兄さん」
ニュイは背中の羽をパタパタさせながら言った。意気込みを感じる羽の音だ。そして、功太と修太は破壊の精霊達が支配する空間へと向かった。
「欲」という名のの悪魔
どのくらい歩いただろう、自分の足に導かれるまま、彼らは「時の狭間」入口へとたどり着いた。入口の扉は人の肉体や骸骨をいくつも積み重ねた不気味な中にも、芸術の香りすら漂う威厳のある趣だった。
功太がその扉に手を掛けようとしたとき、扉を飾るドクロの目が青白く光る。そして、重々しく、地響きと共にその扉が開き始めた。まるで彼らが来ることが分かっていたかのように。
四人は無言のまま、開かれた扉の向こうへと歩み行った。そこはまるで地獄を思わせる程に、いやそれ以上に何もない空間。ひび割れた大地。そこら中に溶岩が冷えて固まったような岩の固まりがそびえ立っている。むろん、緑や水などあるわけがない。サソリすらいないだろう・・・。
「功太、行くぞ」
修太がそう声をかけたときである。
『トウトウキタカ・・・ワレワレニアイニクルトハミノホドシラズメ』
四人の頭の中で声がした。その声は四人の脳を伝い、心臓・・心へと響いてきた。
「マスター。その声を心に響かせてはならぬ!ディストルの洗脳の声じゃ」
ホワイトが叫ぶ。
しかし、声は執拗にも功太と修太の頭の中にそして心に入り込んでくる。
『ハハニアイニキタノダロウ・・・オマエタチノハハオヤニ』
母親という言葉を耳にした二人は、先程までの鋭い表情が次第に薄れていくのが目に見えて分かった。
「いけない!二人への洗脳はもう始まっているわ!!」
ニュイも叫ぶ。しかし彼女自身ではどうすることも出来ない。命令を下すマスターそのものから、闘争の意識がなくなりつつあるのだから・・・。その時である。四人の背後から声がした。
「香織を・・・香織を返せ!」
炎の精霊を司る、レオン。功太と修太の父親の声だ。
「父さん!!」
父親の声によって悪の声から解き放たれた功太と修太は同時に叫んだ。
「レオン・・・。ウラギリモノノトウジョウカ」
今度はしっかりと耳から聞こえる悪の声に、彼らはその闘争心を剥き出しにし、声のする方向へと歩み続けた。
「功太、修太・・・。すまない。私のせいで。」
歩みを早めながらもレオンは、その過去で自分の愛する息子であった二人に語り始めた。
「私が悪の声に洗脳されることがなければ、親父やお前達までこの世界に呼び寄せることはなかったのに・・・。しかも私は実の父親をこの手で・・・。きっと恨んでいるのだろう・・・。」
「父さん。じいちゃんはきっと分かってくれるよ。そうだよね、修太兄!」
功太は、涙声になりながらもレオン・・・父親に対して言葉をかけた。ニュイやホワイトも、心配そうにレオンをみつめる。心なしかレオンに着いている精霊「フレア」も考え深げな表情だ。
「父さん。功太の言う通りだよ。僕たちも恨んでなんかいないさ、父さんのこと」
「マスター。あなたイイ息子を持ったわね」
そうフレアが言ったとき、地響きと共に地面が揺れ始めた。
「グリーディが側に近づいているわ、気をつけて!」
ニュイが羽を動かし、警戒の音をたてている。
「グリーディ?」
功太は地面の揺れに必死に耐えながらバランスを保っていた。
「欲というなの悪だ。功太!」
この世界のすべてを理解しているかのように、修太の口から言葉が発せられる。
それを聞いたレオンは、時の守人としての顔と共に、彼らの父親・雅也としての顔が蘇ってくるのが、自分でも分かった。
「修太、お前『マザー』を着けることが出来たのか?
「ああ、そうだよ父さん」
包容力のある微笑みを浮かべながら、修太は答えた。
「そうか・・・そうか・・・。大きくなったな修太。泣き虫だったお前が」
レオンの声は涙で震えていた。
「マスター!感傷に浸っている暇はないわ!ほら、奴ら来たわよ!」
フレアの指を指すには、スライムとも、ヘドロとも言えるような形のない物体が押し寄せてきた。
「なんだ、ありゃ!!???あれがグリーディ???・・・うぁぁぁー来たぞぉ!」
欲の塊『グリーディ』が、どんどんと功太達に押し寄せてくる。
「フレア、焼きつくしてしまえ!」
「OK、マスター」
レオンがフレアを使って、グリーディに炎の剣を刺した。欲の塊は、激しく燃え始めた。・・・しかし、それは一瞬だった。あっという間にその炎は欲の塊に飲み込まれ、消火(消化)されてしまった。
「よし、火がだめなら氷で固めちまえ!!ホワイト!アイスだ!」
「承知したぞ!マスター!」
ホワイトは功太の命令に応え、ゴォーと音を立てた冷たい冬の風と共に欲の塊をカチカチに凍らせることに成功した。・・・はずだった。・・・バリバリバり!シャリシャリシャリ・・・。ウンウマイ。なんと、グリーディーは自分の回りの氷を食べ始めたのだ!それも、ものすごい勢いで。欲の中の一つ、食欲が目覚めているのだ!
「いけない、このままだと俺たちも食われちまうよ!修太兄ちゃんどうすればいいんだ!」
「感情の精霊は感情を武器に戦わなくては、その効果が現れないのかもしれない!ならば私の『マザー』で何とかなるかもしれない!」
修太はそう言うと、右手を自分の胸当て、呪文を唱え始めた。
「愛の精霊『マザー』よ、この醜い欲の塊に、愛の心を授けたまえ」
修太の体から緑色の光が立ち昇り、その光はグリーディーを優しく包み込んだ。すると、今まで血気盛んににじり寄ってきたグリーディが、静かな河の流れのようにその姿を変えていった。
「修太兄ちゃん!やったね!!!」
「修太、さすが『マザー』を付けただけのことはあるな」
功太とレオンが修太を絶賛したその時である。静かな河の流れが、通りすぎる事なく、またこちらに向かって流れ込んできた。以前ほどの迫力はないものの、その流れには異様な雰囲気が漂っている。ペタペタペタ・・・。ピトピトピト・・・。スライム状の物体が、彼らに貼り付いてきたのだ。
「うぁ!気持ちわりい!!何だよぉー」
「ちょっとやめてよ!私の羽にこびりつかないでよ!」
「わしの自慢の麦わら帽子もベトベトじゃよ」
ペタペタペ・・・。ピトピトピト・・・
「いゃねーもう!この衣装高かったのよ!ブランドものなんだから!」
「えっ?フレア?衣装って?それって買うものなのか?精霊が買い物???」
驚きを隠し切れないレオンのほっぺたにも、ペタペタペタ・・・。
「ああ・・・。やっぱり・・・。『マザー』ではまずかったかな・・・。」
修太のおでこにも、ピトピトピト・・・。タラリーン、ペットリ
「修太兄ちゃん、どうゆうことさぁー」
「ハハハ。こいつはおそらく、私達を愛してくれているのだと・・・。しかしもともとは欲だから、愛欲と言えばいいのか・・・。まいったな・・・。」
ペタペタペタ・・・。ピトピトピト・・・。
「修太、笑いことじゃないぞ、このままじゃ身動き取れないんだが。それに結構重いぞ。このままじゃ押し潰されてしまう。愛情の押し売りって奴なのかこいつは?」
レオンがあきれ顔でそう言うのと同時に、功太が呟いた。
「リベルテは使えるの?ニュイ」
「・・・こいつはすべてを飲み込む性質があるみたい。自由を飲み込んだら、もっと、まずいことになるかも・・・やりたい放題のストーカーになっちゃうかも」
「じゃ、どうすりゃ・・・・・・・あっ!!!!孤独だ!感情の力だし!これなら!」
「さすが、マスター冴えてるわね!さあ、私を思う存分使ってちょうだい!」
「よし!こいつに孤独を好む感情を与えてくれ!ニュイ!アローンだ!!!」
「まかしといて!!・・・・孤独の力よ、孤独の静かさを、孤独への愛を!こいつに与えたまえ!」
するとどうだろう。今までペタペタと彼らにくっついていた物体が、サーッとその体から引いていったではないか!
「功太、お前も強くなったな」
レオンも修太も、功太の成長ぶりに感動している。むろん、精霊達もだ。しかし、ここで安心してはいられない。本当の敵はまだいるのだ。
ラクシオンの正体
「グリーディヲマカストハ、オノレラナカナカノウデマエダナ。ショウガナイ、ワタシミズカラガアイテニナロウ」
ラクシオンは、ひび割れた大地の底から静かにその姿を現した。その姿たるもの、
まさに悪。鉄をも砕くような鋭い牙を持ち、目は青白く光り、その手はどんなものでも握りつぶしてしまうほど大きい。黒光りした体は、鋼鉄でてきているのだろうか・・・。ラクシオンが地面を歩く度、マグニチュード3の揺れが起こる。世界各国で発生する地震のほとんどを、こいつが支配していると言っていいだろう。静かな振動から、次第に力強く憎々しい揺れへと大地を揺るがせながら、功太達のいる場所へ向かっていった。功太達もまた、その揺れの大きくなるほうへと進んでいった。
「振動が大きくなってきだぞ、みんな気をつけろ!」
レオンを先頭に、修太、功太そして、それぞれの精霊達が続く。
ヒュゥゥゥゥ・・・・ドカーン!!
「爆撃砲だ!皆気をつけろ!」
空から彼らの元に次々に落ちてくる。
「うわぁぁぁ!ニュイ、ダークだ!ダーク!」
「OK!闇を来れ!敵から我々を守りたまえ!ダーク!」
辺り一面が闇に包まれる。一瞬、砲撃はおさまったが・・・敵は悪だ。以前ホワイトのつらら攻撃をかわせた時とはわけが違う。狙いを定められなくなったラクシオンは、見境なく攻撃してきた。
「くそう!!ニュイ、ダークを解除だ!これじゃ避けることもできない!!」
「ホントだわ!性格悪い奴!・・・闇よおネンネノ時間よ!ダーク!」
光が戻ってくる・・・といっても薄暗い場所なのだが。
「次は私が!フレア、行くぞ!」
レオンはフレアと共にラクシオンに向かって猛スピードで走り寄った。
「フレア、ヘリオスを目覚めさせろ!」
「了解よ!さぁ、この化け物を燃やし尽くしておしまい!6000℃の炎で!」
レオンの左腕のブレスレットが真っ赤に輝き出す。フレアは炎のパワーをこのブレスレットに込める。レオンは自分の気によってそれを飛ばすつもりだ。これ以上パワーを込めすぎるとレオン自身が燃えつきてしまうのではないかという程の熱気が辺りを包み込む。
「マスター、もう限界よ!早くそのパワーをあいつに放って!!」
「いやいや、まだまだ!・・・」
「父さん!!それ以上やったら死んじゃうよ!!」
しかし、功太達はその熱気に近づいて止めることもできない。ホワイトの力を失ってしまうことにもなりかねない。
「フレア、後は頼むぞ!お前はもう自由だ・・・うぉぉぉぉぉぉ」
レオンが叫ぶ。それと同時にブレスレットは炎の柱へと変化し、ラクシオンへと放たれた。
「バカメ・・・ワタシニヒヲハナツトハ!!」
ラクシオンは、負け惜しみのつもりなのか、余裕のある声でその炎の柱を受けた。燃え上がる炎・・・。溶けるように細かく小さくなっていくラクシオン。
「勝ったのか?」
体中を自分の気で打ちのめしたレオンは、脱力感で地面へと倒れ込んだ。
「父さん!!」
功太がレオンの側へと駆け寄ろうとしたときである。シューっと不気味な音を立てて、ラクシオンの細かくバラバラになったからだから何やら無色無臭の何かが立ち上っている。そして、レオンの体を包み始めた。
「近寄っちゃいけない!!ガスよ!」
フレアも手で口を塞ぐ。マスターを助けなければという思いと、彼はこうなることを知っていて行った行為。『後を頼む』というマスターの言葉が耳から離れない。フレアはその場を離れた。マスターの命令なく、自分の意思で動いている。そう、マスターを失った精霊は、以前のように自分の意思によって戦うことが許されるのだ。
どのくらい時間がだっただろう。ガスがすべて引いた後、自らの命とひきかえに功太達を守ったレオンの亡骸が、空き缶や掃除機、洗濯機やタイヤのホイール、マシンガンの玉や爆発物の欠片と一緒になって転がっていた。そしてそれらは、しばらくすると粉々になり、粉塵となって消えていった。ラクシオンの実態は、空き缶や粗大ゴミ、地雷・核兵器の破片の塊だったのだ。人間達が自然や平和に対して行った仕打ちの塊だ。地球の美しい自然を破壊するもの、そして、人の心や肉体を滅ぼす戦争という名の「物体の悪」それがラクシオンの正体だった。ということは、香織の体を借り、まだも封印から逃れようとするディストルは、そう・・・。最も醜い精神の精霊が支配する「心の悪」・・・「物体の悪」を作り出した張本人だ。
「ちくしょう!父さんのカタキは絶対にとってやる!」
功太が荒々しく叫んだ。しかし、マスターを亡くしたフレアは、目を真っ赤にしながら呟いた。右手にはレオンのしていたブレスレットが握られている。
「でも相手は、悪に洗脳されつつある、もしかして既に悪そのものになってしまった、あなたの母親なのよ」
「分かってる・・・分かってるさ!でも!!」
「功太、もう言うな。行くぞ」
修太の目が何かを決心したかのように輝いていた。父の死を無駄にしないためにも・・・。
母との再会、そして別れ。
この扉の向こうに母が捕らわれている。ここは時の狭間の中心。ディストルの眠る場所。扉は静かに開いた。先ほどまでの激しい戦いが嘘のように静まり返っている。
「皆のもの気をつけるのじゃ、敵はいつ脳に話しかけてくるか分からんからの」
『修太、功太・・・。』
どこからか声がする。香織の声だ。優しく、懐かしい声。二人は母の面影を思い出していた。
『だいじょうぶ。なにもこないわ。さぁ、帰りましょう』
『だ、だっておそらくろくなるんだよっ』
『それは、夜。功太も夜のことは知っているでしょう。夜は優しいのよ。
夜は、功太が大きくなるためにはとても大事なの・・・・・』
『修太。あなたはお兄ちゃんなのよ。
いつでもみんなのことを守ってあげてね』
『お母さん、じゃぁ僕は誰に守ってもらうの?』
『修太のことはお母さんが守っていてあげる・・・いつまでもずっと・・・
修太が大人になって、お母さんのこと必要じゃなくなるまで・・・』
『僕、お母さんのこといらなくなんてならないよ、絶対ならないよ!』
そこまでは、母の優しい記憶・・・。しかし、今はディストルに洗脳された香織の声が、二人の脳に、そして心に語りかける。
『ワタシニアイニキタノデショ?サァ、ココマデイラッシャイ。』
「かあさん・・・どこにいるの?かあさん」
功太は母親の声を借りたディストルの声がするほうに歩いていこうとする。修太も放心状態のまま、動くこともできない。ニュイやホワイトではどうすることもできない。
「マスターしっかりしてよー!!!奴の声を聞いたらだめだってば!!」
「本当に情に弱い家系よね・・・。だからこそ、ジェレフロークの一族なんだけどね」
今やレオンの形見になってしまったブレスレットを見つめながら、フレアが呟く。マスターの命令無しで動けるのはフレアだけ・・・。しかしフレアは火の精霊。二人の母親でもあるこの声の主に、火の制裁を与えることはできない。
『サァ、オカアサンニアナタタチノスガタヲミセテ。ソシテオカアサンヲタスケテ・・・。』
「お母さん。どうすればお母さんを助けてあげられるの?僕には何ができるの?」
修太は、まるで子供に戻ってしまったような口ぶりで、答えた。
『オカアサンガタスカルニハ、テロカードト、シクストーンガヒツヨウナノ・・・。ソレデトラワレルマエノカコニモドレバ、ワタシハジユウニナルノヨ・・・』
テロカードとシクストーンは渡してはいけない。これはディストルの作戦だ。
「マスター!!目覚めるのじゃ!!それ以上聞いてはならぬ!!!」
ホワイトたちも懸命に二人の気をそらそうとしているが、どうにもならない。このまま、テロカードとシクストーンを渡してしまえば、もう一貫の終わりだ!
「おかあさん、テロカードならここにあるよ・・・でも、シクストーンは、僕も功太も持っていないんだ。功太が京香さんにあげちゃったんだよ」
修太がガサゴソと、自分のポケットを探し始めた。
『マァ、ソウナノ・・・。イイワトリアエズソノカードヲワタシニオクレ。フフフッ』
修太が、ポケットの中のテロカードを声のするほうへ差し出そうとした時、背後で女の声がした。聞き覚えのある、強気な声。そう、京香だ。
「ちょっと!何やってんのさ!!それ、渡しちゃだめじゃん!それに、シクストーンはここにあるわよ!このババアめ!功太もしっかりしなさいよ!!このマザコン!」
京香の『マザコン!』の言葉に、功太も修太も一瞬にして我に帰る。
「きっ京香・・・。どうしてここに?」
「どうしてもこうしてもないわよ!功太!シーラにあいさつに行くって行ったきりいつまでたっても帰って来ないじゃない!心配してシーラに会いに行ったら二人で戦いに行ったって言うじゃない!まったく、心配させるんじゃないわよ!!!それに何よ!このザマは!」
マシンガンのように京香か叫ぶ。敵であるディストルさえも『ババア』呼ばわりされて少し調子が狂っているのか、一堂唖然。
「マスター、まあまあ、それくらいにして・・・。」
京香の影に隠れていた真理の精霊、トロイアが顔をだす。
「京香さん、健太たちは大丈夫なのか?京香さんもこんなところに来て」
「健太さんたちはシーラがかくまってるからね。それに、私が行かなきゃだめだってシーラが・・・」
「シーラ様が!?」
フレア、ニュイ、ホワイトが声を同時にあげた。
「そうよ!おいしい役だから私は・・・とか何とかわけ分かなこと言ってたけどね」
精霊達、一堂納得・・・。
「そんなことより、戦うんでしょう!」
京香が意気込んだとき、またあの声が聞こえてきた。
『コウタ、シュウタ、ソノオンナノコエニダマサレテハイケマセン。ミニクイオンナノコエニ』
洗脳の声がまた二人の頭に入り込んでくる。
「もぉーあったまきちゃう!トロイヤ!さぁ、行くわよ!真実の声だけが聞こえるように、真理のベールを掛けてちょうだい!トゥルース!!!でいいのかな?」
「承知した!マスター」
すると、まるでオーロラのような七色のベールが彼ら一人一人の体を包み込んだ。
ニュイはちょっと悔しそうな顔をしながら、功太に向かって言った。
「マスター、あなたの選んだ相手、間違っていなかったみたいよ」
「選んだだなんて、俺別に・・・」
「功太!照れてる場合じゃないぞ、さぁ、ディストルを倒しに行かねば」
・・・『クソウ、モウスコシデテロカードガテニハイルトコロダッタノニ』
声のする方へ歩いていく。
・・・『クソウ・・・シンリノベールヲツカワレテハ、ナススベモナイ』
「ここから声がするぞ」
声のするほうへ導かれ洞窟のような場所にたどり着いた。そこで彼らが見たものは・・・。香織の変わり果てた姿。岩肌に埋め込まれる様にしてその身体の下半分は既に岩のようになっている。香織の声がする。真実の声だ。
『功太・修太、危険を犯してまで私に逢いに来てくれたのね、ごめんね。ごめんね。本当にごめんね』
「かあさん、泣くなよ、どうすればかあさんを救える?」
「お母さん、僕は大人になったんだ。今度は僕がお母さんを守る番なんだよ」
そしてまた、二人は母の記憶を思い出していた。
『もしも暗闇の中に閉じ込められたら、心に光のたまを思い浮かべる・・・
まあるい、ひかり。それが目印。それが目印よ功太。』
『まあるいひかりは、幸せの印、愛の印よ、修太。
そんな光に出逢ったらその光を優しく抱きしめるのよ、
そうすればみんなが幸せになれる。お母さんもね』
「わかった!!」
功太と修太が同時に悟った。
「功太、頼むぞ」
「修太兄ちゃんも・・・」
「ああ」
「リベリテ・・・自由の力で、母の魂を悪から放ちたまえ」
そう功太がとなえると同時に、香織の身体が輝き始めた。まあるく、まあるく輝き始めた。修太はその光に近づき、そして、優しく香織を抱きしめたのだ。
「マザー・・・愛の力で、母の魂を自由にしたまえ・・・おかあさん、逢いたかったよ。そして、さようなら・・・」
すると、今まで薄暗かった洞窟に次第に太陽の光が射し始め、ひび割れた大地が水で潤い、緑が芽を出し始めた。香織は、キーノラントへの母はなる大地へと生まれ変わった。
愛の精霊を着けた修太は、フレア・ホワイトを同時に使うことができた。愛は、すべてのマスターに成りえたのだ。そして、ディストルは包み込まれた。封印ではない。大きな愛が悪そのものを包み込んだのだ。包み込まれた悪は、もう二度と復活しないであろう・・・。この世界のこの時点の現実からは。
しかし、ここはキーノラント・・・未来である。椿山家の人間プラスαが過去の世界、地球にに戻り、新しい悪が巨大に成長することがなければ、悪は永遠に目覚めることはないはずだ。
別れ
「良くやってくれました。感謝致します。実体のなくなったリゲン、リオン、そして香織の魂は、このキーノラントの大地に眠らせましょう。本当によく戦ってくれました。」
シーラは戦い抜いた戦士達にねぎらいの言葉を述べた。誇らしげに微笑む椿山家の兄弟5人とプラス1。健太達は、シーラの元で功太達の戦い振りを見ていたのだ。
「兄ちゃん達、めちゃくちゃかっこよかったよ!本当に正義の味方だね」
「ちくしょう、オレ様も戦いたかったぜ!この体がもっと頑丈に出来てりゃーよう!ロッカーとは言え、細いだけじゃいけねえなぁ、体力や筋力つけなきゃよ」
ゴーレムとの戦いで痛め足をさすりながら、健太が言う。
「さぁ、みんな帰るぞ、僕達の地球に」
修太の言葉に、功太は、ハッとなった・・・。そうだ。自分たちは帰らなくてはならない。自分たちが今生きている現在の地球へ。つまり、ホワイトやニュイとの別れの時なのだ。
「・・・最後のお願い。いや命令だよ、ニュイ、ホワイト」
「なに?マスター」
最後という功太の言葉に、寂しさを隠し切れないのか、ニュイは功太の目を見て話そうとしない。
「俺達の記憶を封印してほしい。その闇と冬の力で俺達のこの記憶を」
「私たちのことを忘れるのね・・・」
「いや、忘れるんじゃないよ。封印するのさ。これから元の時代に戻った時、少なくとも普通のものの見方ができるように」
「どうしてぇぇぇぇ!!せっかく魔法使いになったみたいにかっこ良かったのにぃぃぃ。いやだよぅぅぅそんなのぉぉぉ!」
裕太が駄々をこねる。しかし修太が優しく説明をする。
「裕太いいか、魔法使いって言うのは、普通の人に魔法が使えることがばれたら、魔法が使えなくなるんだよ。裕太がもっと大きくなって、上手に魔法が使えるようになったら、記憶の封印を解いてもらえばいいだろう」
裕太は、自分自身を魔法使い扱いしてくれたことで満足したのか、うん、とうなずき、修太の手を握った。
「それじゃあマスター、テロカードとシクストーンの用意はいい?呪文をお願い!さぁ、とっとと言っちゃってよ!」
涙目になりながら、震える声で功太に言った。
「わかった・・・。行くよ。ニュイ、ホワイト・・・今までありがとう。本当にありがとう。君達にはたくさんの大切なことを教えてもらったよ。決して忘れない。封印はされても、きっと心のどこかに」
功太の声も震えている。そして最後の呪文・・・。
『我々の記憶を今ここに封印したまえ』
功太は、最後の呪文に日本語だけを使った。一字一句丁寧に言葉を並べた。
『彼らの記憶を、今闇の中に封印する。・・・・ソシテ、フタタビカレラニメグリアエルコトヲイノッテ』
ニュイが功太の呪文をくり返したとたん、6人の体がフワッと宙に浮いた。そして目を開けていられない程の強い光が彼らを包み込んでいた。電気ショックのような痛みが6人の体に走る。声も出せないくらいの衝撃だ。衝撃とともに、竜巻が彼らを包み始めた。ホワイトも一緒に呪文を唱え始めた。
『彼らの記憶を、今冬の大地に冬眠させる。・・・ソシテ、フタタビカレラニメグリアエルコトヲネガッテ』
竜巻が大きくなる、光と闇の中の竜巻・・・。テロカードとシクストーンが光を放つ。
どのくらいたったのだろう。そこには6人の姿はなかった。そうして6人は、現代の地球へと戻っていったのだ。
* * *
彼らの記憶はすべて封印された・・・。はずだった・・・。
そう、ただひとつの例外を除けば。
エピローグ
そこまで原稿を書き終えて、私はペンを置いた。今時文章を書くのに紙とペンというのも珍しいが、どうもワープロやパソコンなどは苦手で・・・。
「あなた!あなた?あなたってば!!聞こえてるなら返事ぐらいしてちょうだいよ!」
妻の声だ。相変わらずの負けん気の強さというか、何というか・・・。
「何だよ」
「今日は裕太君のデビューショーなのよ!原稿なんて後回し後回し!!」
そう、今日は裕太のプロマジシャンとしての初舞台だ。魔法使いになりたいと言っていた裕太。まるで封印に導かれるようにその実力を発揮し、高校を卒業と同時にプロのマジシャンになった。
健太も自分のバンドメンバーを引き連れて、ツアーの最中だというのに応援に来るらしい。
そして、修太は、裕太のデビューショーのために海外から帰国する。あれから彼は教員をやめ、もう一度大学に入り直し環境学について学んだ。現在様々な国で環境保護に携わる仕事をしている。人間達が生んだ科学の発達によって滅びつつある自然を守るために。彼の夢であった探険家とは少しばかり違うものの、確実にその封印に導かれつつあるのだろうか。そしてもちろん、修太の愛する妻と子供も一緒だ。
正義の味方になりたいなどと言っていた真太は、本当に単純な奴だ。警察官になる!と言い出している。「事件は会議室で起きてるんじゃない!現場で起きているんだ!」などと叫びながら。
そして、私、椿山功太の記憶は封印されていなかった。それが、封印における唯一の例外。こうしてあの出来事を、作家となった今書き続けている。地球にとって大切な自然、人間にとって大切な愛と勇気を伝える役目が私にはあったようだ。昔から日記など良く書いていたというものの、将来の夢など語ることすらできなかったこの私が作家になるなんて。
しかし、それも運命かもしれない。他の4人ではなく、私が始めにキーノラントへ導かれたということも、全てを書き記すためには私が一番適していたからなのかもしれない。その証拠に、私に残された記憶・・・。ニュイやホワイトがわざとそうしたのかどうかは分からない。そして、今あの二人がどうしているかなど知るよしもない。
ただ言えることは、ここにこうして愛する妻、京香がいる。平凡だが、安心した毎日が続けられる。それが一番の幸せだということだ。
* * *
「ニュイ、お前、呪文に自分の願い事を付け足したたじゃろう」
ホワイトがニュイに言った。
「何よ!自分だって!もっともらしく言ってたじゃない!!」
ニヤニヤしながらニュイが言う。
「それは最初にニュイが言ったからじゃ・・・」
「でも、私のほうが先だもんね!!」
「そんなのは我が輩達が決めることではない、神のみぞ知るじゃ」
「大丈夫よ、あの二人なら」
「そうじゃな」
「また、逢えるわよきっと」
「そうじゃな・・・。」
二人は、辺りには誰もいないにもかかわらず、小声で話し続けていた。
* * *
「それから、もうひとつ。報告があるのよ」
少し視線を落としながら京香が私に向かって話し出す。
「なんだ、今忙しいんだ出版社がもうすぐ締切りの催促に来るんだ。それまでに書き終えておかないと、裕太のショーに間に合わないだろう!」
「原稿なんてそんなの、どうでもいいことなんだから!聞いてよ」
「どうでもいいわけないだろう」
「・・・」
しばらくの沈黙の後、京香が私の手首を握り、自分のお腹へと持っていった。
「できたの・・・。3ヵ月だって」
私は始め何のことか分からなかった。
『できたって???何が?原稿はまだ出来上がってないぞ???何ができたんだ?』
わけの分からないような顔をしている私に向かって、京香は言った。
「大丈夫?しっかりしてよ!あなた、父親になるのよ」
「えっ???」
私はまだその状況とやらをつかめていない。
「私たち親になるのよ・・・。予定日は10月の21日よ」
ようやく状況が飲み込めてきた。こみ上げてくるものを堪え切れない。
「そうか・・・。そうか・・・。父親になるのか・・・。」
私はまた机に向き直ると、手持ち無沙汰にペンのキャップを取ったり付けたり・・・。
『しかも、10月21日が予定日だなんて。これも生と死を司る精霊のせい。いや、おかげだというのか。何はともあれ、この私が父親になるのだ。かつて私の父や母がが私達兄弟を愛してくれたように、私も京香の中に芽生えた小さなひとつの命を、慈しみ大切に育てていくのだろう。』
そんなことを考えている私に微笑む京香。そして、こう付け加えた。
「しかもね・・・。赤ちゃん、二人いるみたいなの・・・。双子ですって」
「えっ!!!」
* * *
ここは、キーノトランドの片隅・・・。
「ということは、私たちの祖先になるのよね」
「まあ、そうゆうことだな」
「魂は一つだものね、人間に生まれようが、精霊に生まれようが」
「まぁ、そうゆうことだな」
「どんな名前付けてくれるのかしらね」
ニュイとホワイトは、まだコソコソと何やら楽しげに話し続けている。
© 2005[RRN1]All rights reserved.