「おい、巧太!巧太!」
「ん・・・・」
――なんだ、健太兄ちゃんの声だ。もう朝か。
「こうたー!返事してくれ、巧太」
――俺、なにしてたんだっけ、修太兄ちゃんが朝から大きな声出すなんて、もう遅刻しかけてんのかな。
巧太はぼんやりした意識の中で、体を起こそうとしたが、金縛りにあったように動かない。
「こーたにいちゃーん、どこにいっちゃったのー!!」
ふたりの弟、裕太と真太の泣き声も、次第にはっきりと耳元できこえる。
――そうだ、俺、修太兄ちゃんが見つけてきたじーちゃんの手紙に入ってた変なカードに吸いこまれて・・・
「・・・ここ・・どこ?」
ようやく巧太は、かすれながらも声を出す事ができた。
「にいちゃん」
「気がついたのか?」
「どこにいるの?」
「身体は平気か?!」
巧太の声に、四人は同時に声をあげた。
「・・・・・いっぺんにいわれても、わかんないよ」
巧太はそこで、少し笑った。
なにが自分の身に起きているのか、その不安の中でいつもとかわらず自分を心配している兄弟達の様子が嬉しかった。
「そこは、どんなところなんだ?」
暗黙の了解で長男の修太が代表して質問する。
「どんなところって・・・・暗いよ。真っ暗だ」
巧太の目は完全に見開かれていたが、いくら目を凝らしても、なにも見えなかった。
「体も、動かせない。かろうじて・・・首を横に動かす事はできるけど・・・」
その時巧太は、ふと気が付いた。
「ねぇ、兄ちゃんたちは、どこにいるの?」
「僕達は、家にいるよ。健太も、裕太も、真太も、みんな一緒だ」
「・・・じゃあ、どうして俺の声が聞こえるの?」
「カードだよ!」
もうガマン出来ないという様子で、次男の健太が口を挟んだ。
「お前が吸いこまれたカードに、ずっと話し掛けてたんだよ!お前が気が付くまで、丸3日呼びっぱなしだ。ロックミュージシャンの貴重な声が、お前のおかげでガラガラだよ!」
口調は相変わらずぶっきらぼうだが、最後のほうの健太の言葉は涙声になっていた。
巧太も思わず泣いてしまいそうになったが、ぎゅっと奥歯を噛締めて涙をこらえた。
――ありがとう。
そう言いたいのに、言葉にならない。
暗闇は、普段は見えないものが見える、不思議な力があるのかもしれない。離れていても、巧太には、自分たち兄弟を繋ぐ強い絆を感じていた。
「導かれし者よ」
不意に頭の中で、どこかで聞いた事のある、女性の声がした。
「なっ、なんだ?!また女の声がすんぞ」
「おととい巧太が吸い込まれた時に聞こえてきた声だ」
「おまえがこうたにいちゃんを連れてったんだなー、ぼくがやっつけてやるー」
「功太兄ちゃんをかえしてください・・・」
どうやら他の兄弟達にも、この声が聞こえているらしかった。
「導かれし者巧太。そしてジェレフロークの一族よ」
女性の声は透きとおったガラスを思わせる、か細く高い「音」のような声だった。しかしそれははっきりと、巧太達の脳に語りかけてきた。
「巧太のいる場所はキーノラントへ続く扉のある聖地、シュラです。そこは地球の約五倍の重力をもつ空間・・・・」
「地球の五倍って・・・そこは地球ではないのですか?」
修太が声をあげた。
巧太はそこでようやく自分の体が動かせない理由がわかった。
「地球です。しかし、あなたがたが考えているような地球ではありません。今は、その答えを教えるわけにはいきません。巧太、あなたがその答えを見つけなさい。時がくれば、扉は開きます」
「俺が・・・・・」
巧太は突然不安に襲われた。自分ひとりで、体も満足に動かせないこの暗闇の中、答えというものを見つけないといけない。そんなこと・・・
「ひとりでは、ありません」
巧太の心の動きが読めるかのように、女性は話を続けた。
「テロカードが、あなた達を結んでくれます。そのカードは功太の心と繋がっています。巧太の真の心の叫びのみ、残された一族に届きます。あなたのお爺様も、そうやってお父様の心の叫びを聞きつけられたのです。ただし、巧太には外界の声は聞こえません。運命の時まで、巧太はここで答えを見つけ出しなさい。シュラは地球の三倍、時間の進み方が遅いのです。時間は充分にあるはずです。私が今言えることは、これだけです」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
しばらくの沈黙が流れた。
女性の話は、もう続きそうになかった。
「今の話・・・・・」
ようやく巧太は口を開いた。
「どう思う?修太兄ちゃん・・・」
しかし、修太は何も答えなかった。
「兄ちゃん?」
この瞬間から、巧太の、重力と闇、そして孤独との闘いが始まったのだった。