巧太が行ってから、何日になるだろう。2日目だ。祖父が死んだのが10月21日。葬式は、次の日。22日。それから1週間くらいは葬式関係の色々で、また一週間くらいは「これからどうするか」で忙しかった。しばらくして、落ち着いてきて、「遺書」を見つけたのが、そうだ。もう早いもので1ヶ月以上立っている11月30日だ。ばたばたしていると日時が過ぎ去るのは早いものである。そして、巧太がその日突然旅立ち、次の日12月1日、祖父の部屋で「ビデオ」を見て、そして今日。兄弟皆で、祖父の部屋をかき回して、何か手がかりになりそうな物を探しているのであった。
収穫はあった。修太が、祖父の「ノートパソコン」(最新のペンティアムIIIを積んだやつだ。いつ買い換えたんだか...)の「外付けMOドライブ」になにやらいかにも怪しげな、金ぴかの「MO」がささったままだった。
「すごいぞ。この<MO>のデータ。<キーノラント>や、<時の守人>について、ほとんどのことが、しかも親切に、見やすいように<HTML形式>で保存してあるぞ!僕たちが見るのを予想していたように!!」
「ホントか?ほんとに手の込んだことをしやがるボケじじいだな!」
「これによると、例えばな。<キーノラント>はここより3倍時間の進みが遅いそうだ。なぜかと言えば、実際は時間が遅いのではなく、自転が3倍遅いのであって、<日付>の進み方が遅いそうだ。」
「それで?」
「うむ...<キーノラント>は<地球>の約1000年後であって、その途中の大戦争で、自転のスピードまでも遅めてしまった。と書いてある。」
「ふーん。とうてい、じじいがもうろくして書いた訳じゃなさそうだな。」
一方、弟二人は、居間でテレビゲームをしていた。
「よし!いけ!」
ドカ、バキ!ピヨーン。ピンポーン。ドン!
「くそおお。真太なんかに負けないぞおお。」
<波焼拳!>ドカーン!ピンポーン。<ユウ・ウィン!>
「やったぜええ。ボクの勝ちだああ。」
ピンポーン
「くっそー!負けちゃった!!!」
ピンポーン
「どうだああ!思い知ったかああ!」
ピンポーンピンポーンピンポピポピポピポピンポーン!!!!
「やばいよっ!おきゃくさんだ!」
二人は、来客のベルも無視して、ゲームをしていたことに、やっと気がついたのである。素早い真太が、ダッシュで玄関のドアを開けに行った。
ドアを開けると、茶髪のロングでコートを着て、ジーパンをはいた気の強そうなおねえさんが、髪をかき上げて、にらみつけてきた。
「ひいっ!」
真太は、驚いて、またドアを閉めた。しかし、おねえさんは、無理矢理ドアを開けて、ずかずかと入ってきた。
「何よ。人をさんざん待たせといて、おまけに<ひいっ>なんて。失礼しちゃうわね。巧太は?」
突然の来客に気づいた修太が駆けつけた。
「あ、銀京香さんでしたね。お久しぶり。巧太なら..部屋で寝込んでるけど。」
「あ、お兄さん。どもっ。」
京香は、右手でピースをした。
「巧太のやつ、ここ2日なんか風邪とか言って休んでるからさ、さぼりかなーとか思ってちょっと様子見に来たんだ。」
修太は、ひとまず、巧太は風邪と言うことを学校へ連絡していたのだ。
「とか言って、ホントは巧太のことが心配なんだろう?かわいいねぇ。」
「やだ、もう、お兄さんったら。」
彼女は修太の背中をバシリと叩いた。
「そんなこと言ったらセクハラよ?ま、それはともかく、巧太に会わせてもらうわ。」
コートを脱ぎながら、彼女は二階の巧太の部屋へずんずん歩いていった。
「あ、ちょっと!京香さん!待ってく..」
修太が引き留めたのは一足遅かった。京香はすでに部屋のドアを開け、肩まで脱ぎかけていたコートを落とし、赤のロングTシャツ姿で口をあんぐり開いて立っていた。
「ちょ..これ..どういうこと??」
巧太の部屋は、むろん、もぬけの殻。ベッドも風邪で寝込んでいた様子は何処にもないし、机は、いつものように、勉強道具すらないスッキリさだ。
「あの...だから...巧太は...」
修太は、絶対絶命だった。しかも、彼は、正直な性格だった。
「巧太は...<キーノラント>に行ったんだ。」
「は??????」
もちろん、京香はちんぷんかんぷんだ。飽きっぱなしの口で、せっかくの巧太の彼女の美顔も台無しである。
その後、修太は、仕方なく、というか、もうやけくそで、京香に事の成り行きを話した。彼女の反応は、意外だったが、彼女らしかった。
「ふーん。面白そうじゃん。しかも巧太からもらった石なら持ってる。ほら。<シスコーン>..だったっけ?」
京香は、キラキラ光る「シクストーン」(「シスコーン」では断じてない)をポケットから取り出し、修太に見せた。
「おお、さすが巧太が惚れただけのことはある。あれ?君が惚れたんだっけ?ま、いい。これと<テロカード>の正しい使い方は....」
修太は、祖父のペンティアムIIIの「VAIOノート」のキーボードに指を滑らし、使い方を見た。
「これだ!<テロカード>の..真ん中のくぼみに<シクストーン>を当てる。それで、後は見ての通り?」
「何それ?後は見ての通りって?」
「ま、やってみようじゃありませんか。」
修太は、兄弟を集め、そして、書いてあるとおりのことをした。すると、「カード」に置いた「シクストーン」から、光の扉が現れた。
「これが、じいちゃんの<パソコン>に書いてあった、<タイムマシン>なんだねっ!」
すると、前も聞いたことのある女の声がした。
「さあ、皆、すでに巧太は<シュラ>を終了した。急いで皆も<シュラ>を終了して、<キーノラント>を救う手助けをしてほしい。」
「よし、行くぞ。」
修太は、ちょっと持ちにくいが、外付け「MOドライブ」と「ノートパソコン」を手にして(むろん「バッテリー」も完璧に充電してある。あっちにも「コンセント」くらいあるだろう...)、そして扉へ入ろうとした。
「ちょっと待って!私も連れてってよ。」
京香が言った。
「でも、あんた椿山家じゃないだろ。<パソコン>に書いてあったじゃん、これも。椿山家じゃないと駄目だって。」
「大丈夫。だって、あんた達の母親だって、元は椿山家じゃないでしょ。それに、<ヒーロー>には<紅一点>が必要よ」
「ああ。そうかぁぁ。」
裕太は納得したようだ。
「よし、なら、みんなで行くぞ!」
五人は、扉の中へ一気になだれ込んだ。<シュラ>は、もう朝なので、巧太の時のように真っ暗ではない。
修太は思った。巧太もいい彼女見つけたなあ...いや、待てよ..あんた達の母親も元は椿山家じゃないって..まさかあの人..椿山家になるつもりじゃあ......
いくらなんでも、考えすぎだろうと修太は思った。しかも、後何年か先のこと。
未来は、いくらでも変わる。また、変わらない場合もある....それは神のみぞ知る。だ。